中原中也・詩の宝島/「ノート1924」ダダ脱皮の道・続続続続/「無題(緋のいろに)」
昭和2、3年(1927、28年)ごろに計画され
結局は陽の目を見なかった詩集のために作られた詩篇が
「ノート1924」の末尾に書かれてあり
その詩篇を読んできましたが
最後の作品になります。
◇
無 題
緋(ひ)のいろに心はなごみ
蠣殻(かきがら)の疲れ休まる
金色の胸綬(コルセット)して
町を行く細き町行く
死の神の黒き涙腺(るいせん)
美しき芥(あくた)もみたり
自らを恕(ゆる)す心の
展(ひろが)りに女を据(す)えぬ
緋の色に心休まる
あきらめの閃(ひらめ)きをみる
静けさを罪と心得(こころえ)
きざむこと善(よ)しと心得
明らけき土の光に
浮揚する
蜻蛉となりぬ
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
◇
心はなごみ、とあり
心休まる、とある緋のいろ(色)は
おそらく遊女がはおる着物のことでしょう。
詩人は折々に
横浜の娼婦の街へ遊んだことが知られています。
名作「むなしさ」は
この詩の書かれたころに作られました。
心なごみ、心休まる場所で
横浜の街はあったのです。
◇
女性たちの着る緋色の衣装が
いつしか赤とんぼの緋に成り代わる最終行が
見事です!
横浜のその土地(明るい土)の光に溶け込んで
詩人は空に浮んでいる蜻蛉(あきつ又はトンボ)になったのでした。
◇
今回はここまで。
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