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2018年3月 9日 (金)

中原中也・詩の宝島/「幼獣の歌」の太古

ランボーの「太陽と肉体」と「フォーヌの頭」を読んだ後で

中原中也の「幼獣の歌」を読み直したくなるのは

唐突というものでしょうか。

 

「在りし日の歌」の13番目に

この詩が不意に現れる謎を

その度に通りすぎてきたものですが

ここでじっくりこの詩に向き合うのも

空想の果てには面白いことになりそうです。

 

 

幼獣の歌

 

黒い夜草深い野にあって、

一匹の獣(けもの)が火消壺(ひけしつぼ)の中で

燧石(ひうちいし)を打って、星を作った。

冬を混ぜる 風が鳴って。

 

獣はもはや、なんにも見なかった。

カスタニェットと月光のほか

目覚ますことなき星を抱いて、

壺の中には冒瀆(ぼうとく)を迎えて。

 

雨後らしく思い出は一塊(いっかい)となって

風と肩を組み、波を打った。

ああ なまめかしい物語――

奴隷(どれい)も王女と美しかれよ。

 

     卵殻(らんかく)もどきの貴公子の微笑と

     遅鈍(ちどん)な子供の白血球とは、

     それな獣を怖がらす。

 

黒い夜草深い野の中で、

一匹の獣の心は燻(くすぶ)る。

黒い夜草深い野の中で――――

太古(むかし)は、独語(どくご)も美しかった!……

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

 

 

この詩が

冒頭詩「含羞(はじらい)」の流れの中に現われ

太古をしのぶ

幼い獣のつぶやきのような歌であってみれば

それはアストラカンや古代の象へと

かすかにそして強く響き合っているように聞こえてきませんか?

 

 

黒い夜

草深い野

 

冬を混ぜる 

風が鳴って

 

風と肩を組み

波を打った

 

これらの自然は

太古のものですが

ここにパンやサチールやフォーヌが躍動していても

まったく矛盾しませんし

そこに奴隷や王女が登場する謎が

解(ほど)けてくるようです。

 

 

今回はここまで。

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