中原中也・詩の宝島/「ノート1924」ダダ脱皮の道・続/(秋の日を歩み疲れて)
幻の第1詩集のための草稿詩篇を
つづけて読みましょう。
(秋の日を歩み疲れて)は
完成稿ではなく
題名もつけられていない下書き稿ですから
( )の中に詩の第1行を記す習わしです。
◇
(秋の日を歩み疲れて)
秋の日を歩み疲れて
橋上を通りかかれば
秋の草 金にねむりて
草分ける 足音をみる
忍従(にんじゅう)の 君は默(もく)せし
われはまた 叫びもしたり
川果(かわはて)の 灰に光りて
感興(かんきょう)は 唾液(だえき)に消さる
人の呼気(こき) われもすいつつ
ひとみしり する子のまなこ
腰曲げて 走りゆきたり
台所暗き夕暮
新しき生木(なまき)の かおり
われはまた 夢のものうさ
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
◇
この詩にも幾つか
ダダ脱皮が試みられています。
4行-4行-3行-3行のソネット
5音7音の57調
文語
そして、分かち書き(行を句ごとに空白で分けて書く詩の方法)。
◇
忍従(にんじゅう)の 君は默(もく)せし
われはまた 叫びもしたり
――の「君」は泰子で
「われ」は詩人のようです。
ならば
京都の匂いがしないでもないですが……。
◇
台所暗き夕暮
新しき生木(なまき)の かおり
われはまた 夢のものうさ
――は泰子の新生活を垣間見た詩人のこころの内でしょうか。
それが
「夢のものうさ」と吐露(とろ)されているのならば
ハッとせざるをえません。
◇
今回はここまで。
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