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2018年4月23日 (月)

中原中也・詩の宝島/ランボーを介した交流<はじまり・その13/小林秀雄の人生の入口

 

 

富永太郎の「遺産分配書」を知らなかった小林秀雄が

「Au Rimbaud」について

「これはランボオではない、寧ろ“Au Parnassien”とすべきだ。」

――などと富永に喋りまくった見舞いの日を回想するのは

「ランボオⅢ」の中でのことですから

1947年(昭和22年)のことです。

 

1947年に1925年のある日を

回想していることになります。

 

20余年の歳月が流れているのでした。

 

小林秀雄の回想は

もう少し続きます。

 

 

間もなく彼は死んだが、僕はその時、病院にいて、手術の苦痛以外の事を考えていなかった。

 

やがて、僕は、いろいろの事を思い知らねばならなかった。

 

とりわけ自分が人生の入口に立っていた事について。

 

(「ランボオⅢ」。改行を加えました。編者。)

 

 

伊豆大島から帰ったばかりの小林秀雄は

突如、盲腸炎を発症し

そのまま京橋にあった泉橋病院に入院し

手術に臨んでいました。

 

伊豆大島へのこの旅行は

長谷川泰子との媾曳(こうえい又はあいびき)のはずでしたが

待ち合わせの場所に泰子は現われなかったために

単独行となったものでした。

 

富永太郎が死の淵にあった頃

小林秀雄は盲腸炎で七転八倒していました。

 

この頃を回想して

富永太郎の死とともに

盲腸炎の手術を思い出したのと同時に

自分が人生の入口に立っていたことを吐露(とろ)しているのです。

 

帝大仏文科1年の夏のことでした。

 

人生の入口にあったとある中に

泰子との暮らしが含まれていることも

間違いないことでしょう。

 

 

富永太郎の死から10余年後

中原中也が亡くなったとき

小林は「死んだ中原」という詩を書き

自ら編集責任者であった「文学界」へ載せました。

 

 

死んだ中原

 

君の詩は自分の死に顔が

わかって了った男の詩のようであった

ホラ、ホラ、これが僕の骨

と歌ったことさえあったっけ

 

僕の見た君の骨は

鉄板の上で赤くなり、ボウボウと音をたてていた

君が見たという君の骨は

立札ほどの高さに白々と、とんがっていたそうな

 

ほのか乍ら確かに君の屍臭を嗅いではみたが

言うに言われぬ君の額の冷たさに触ってはみたが

とうとう最後の灰の塊りを竹箸の先きで積ってはみたが

この僕に一体何が納得できただろう

 

夕空に赤茶けた雲が流れ去り

見窄(みすぼ)らしい谷間(たにあ)いに夜気が迫り

ポンポン蒸気が行く様な

君の焼ける音が丘の方から降りて来て

僕は止むなく隠坊(おんぼう)の娘やむく犬どもの

生きているのを確めるような様子であった

 

ああ、死んだ中原

僕にどんなお別れの言葉が言えようか

君に取返しのつかぬ事をして了ったあの日から

僕は君を慰める一切の言葉をうっちゃった

 

ああ、死んだ中原

例えばあの赤茶けた雲に乗って行け

何んの不思議な事があるものか

僕達が見て来たあの悪夢に比べれば

 

(文春文庫「考えるヒント4/「ランボオ・中原中也」より。新かなに変えました。編者。)

 

 

死の直前、と言っても

詩人自身は死ぬつもりはなかったはずですが

「在りし日の歌」の清書原稿を

小林秀雄に託したのでした。

 

「奇怪な三角関係」(小林秀雄)とはいえ

揺るぎのない線が

詩人同士の間に通っていました。

 

 

 

今回はここまで。

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