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2018年4月 4日 (水)

中原中也・詩の宝島/ランボーを介した交流<はじまり・その4>/富永太郎「秋の悲歎」再

 

 

大正13年(1924年)10月23日付けで

富永太郎は小林秀雄に書簡を出しています。

 

「秋の悲歎」を書き

それを同封しているのですが

発信したのは

京都市上京区下鴨の下宿でした。

 

太郎がこの住所に住みはじめたのは

9月初旬でした。

 

7月に中原中也と知り合っていますし

中也が太郎のこの住所にほど近い

寺町今出川下ル西入ルに越して来たのは10月ですから

この詩の時間に

中也はなんらか感応する域内にあったということができます。

 

 

秋の悲歎

 

 私は透明な秋の薄暮の中に墜ちる。戦慄は去った。道路のあらゆる直線が甦る。あれら

のこんもりとした貪婪な樹々さえも闇を招いてはいない。

 私はただ微かに煙を挙げる私のパイプによってのみ生きる。あの、ほっそりとした白陶土

製のかの女の頸に、私は千の静かな接吻をも惜しみはしない。今はあの銅色(あかがね)

の空を蓋う公孫樹の葉の、光沢のない非道な存在をも赦そう。オールドローズのおかっぱ

さんは埃も立てずに土塀に沿って行くのだが、もうそんな後姿も要りはしない。風よ、街上

に光るあの白痰を掻き乱してくれるな。

 私は炊煙の立ち騰る都会を夢みはしない――土瀝青(チャン)色の疲れた空に炊煙の立

ち騰る都会などを。今年はみんな松茸を食ったかしら、私は知らない。多分柿ぐらいは食

えたのだろうか、それも知らない。黒猫と共に坐る残虐が常に私の習いであった……

 夕暮、私は立ち去ったかの女の残像と友である。天の方に立ち騰るかの女の胸の襞(ひ

だ)を、夢のように萎れたかの女の肩の襞を私は昔のようにいとおしむ。だが、かの女の髪

の中に挿し入った私の指は、昔私の心の支えであった、あの全能の暗黒の粘状体に触れ

ることがない。私たちは煙になってしまったのだろうか? 私はあまりに硬い、あまりに透

明な秋の空気を憎もうか?

 繁みの中に坐ろう。枝々の鋭角の黒みから生れ出る、かの「虚無」の性相(フィジオグノ

ミー)をさえ点検しないで済む怖ろしい怠惰が、今私には許されてある。今は降り行くべき

時だ――金属や蜘蛛の巣や瞳孔の栄える、あらゆる悲惨の市(いち)にまで。私には舵は

要らない。街燈に薄光るあの枯芝生の斜面に身を委せよう。それといつも変らぬ角度を保

つ、錫箔のような池の水面を愛しよう……私は私自身を救助しよう。

 

(思潮社、現代詩文庫「富永太郎詩集」、1975年より。新かなに変え、ルビは( )で示しま

した。編者。)

 

 

すでに一度読んだのですが

この詩「秋の悲歎」が

京都滞在中の富永太郎が

東京の大学生、小林秀雄への手紙に同封されていたことを知り

さらに手紙の内容を読むと

読みに深さが出てきます。

 

この手紙を読みましょう。

 

 

 近頃どうしてる。学校へ通ってちゃ、手も足も出ないだろうと思う。

 

 こっちもあんまりよろしくない。へんに弱っていて、元気がよくても、カンバスなんか下げて

表へ出かけるのが、あんまりガセな仕事に思って出来ないような工合だ。今になんとかな

るだろう。

 

こんなものが出来たから近況報告がわりに送ってみる。ははあランボオばりだな、と言って

もいい。とにかく日本流行の「情調派」でないというレッテルをつけてくれたら本望だ。出来

不出来は問わず。

 

 10月23日                               太

 秀雄様

 

(同。)

 

 

今回はここまで。

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