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2018年5月 7日 (月)

中原中也・詩の宝島/ランボーを介した交流<はじまり・その19>/小林秀雄の恋心

 

 

小林秀雄が長谷川泰子との恋愛のさなかに

書き残した手記があります。

 

現在ではかなり有名になったこの「手記断片」は

大岡昇平が「朝の歌」(1958年)中で公開しました。

 

「新編中原中也全集」でも

「別巻」(上)に資料として収録されました。

 

9月7日(1925年)という日付をもつ

この手記を読みましょう。

 

 

 Tを見舞った帰り、Nと青山の通りを歩いた。四時、黄色い太陽の光線が塵汚とペンキの色彩と雑音

の都会をジリジリ照りつけた。6丁目の資生堂に2人は腰を下ろした。2人ともひどく疲れていた。軍歌

を呶鳴り乍ら兵隊の列が、褐色の塊を作って動いて行く。

 

――という書き出しに現われるTは、富永太郎、

Nは中原中也です。(新かなに変えました。編者。)

 

小林秀雄と中原中也は

2人して富永太郎を見舞ったことがあったのでしょうか。

 

そう読めなくはないし

小林が単独で富永を見舞った後で2人は落ち合ったということも考えられます。

 

この手記が事実の記録ではなく

小説の下書のような虚構を含むものなのかもしれません。

 

 

「なんだい、あの色は」

Nは行列を見ながら、いまいましそうに言った。

「保護色さ、水筒までおんなじ色で塗られてやがる」

2人は黙った。私はY子のことを考えた。兵隊の列は続く。

「見ろ、あれだって陶酔の一形式には違いない」

「きまっているさ、陶酔しない奴なんて一人も居るもんか」

「何奴も此奴も、夏なんてものを知りゃしないんだ。暑けりゃ裸になるという事だけ知ってるんだ」

「もうよせ」

 

 

会話の最中に

Y子のことをしきりに考えている私――。

 

このあたりで俄然この手記は

内面の緊張にいっそうフォーカスしていくことに

気づかされます。

 

 

 私は苛々して来た。あらゆるものに対して、それが如何に美であるかとうよりも、如何に

醜であるか。如何に真であるかという事より、嘘であるかという事の方が、先ず常に問題に

なる頭が、こんな日には、特につらかった。然し、Nと会ってY子の事許り考えている自分に

とっては、(Nが)こういう性格で、苛々した言葉ばかりはく事が、自分の心を見破られない

という都合のよさがあった。然しそれを意識すると、如何にも苦しくなった。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

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