中原中也・詩の宝島/ランボーを介した交流<はじまり・その22>/或る夜の幻想
傍らでY子が、あたしはこの辺だわと白魚のような指を揃えて頭の頂点にのせた。私は彼
女がいつか、いんげん豆が椅子を降りて来る夢を見たと話したことを思い出した。
◇
小林秀雄の手記のこの下りの
白魚のような指を揃えて頭の頂点にのせた。
――という部分に
泰子の美しい指先が鮮烈に捉えられていますね。
そして、後の方の下りの
いんげん豆が椅子を降りて来る
――という泰子が見た夢に
小林が泰子という女性の一側面(というより全体像)を
捉えているところが面白いですね。
◇
この下りを読んだ時
中也の詩の一群を
無性に読みたくなったのに
理由はありませんでした。
◇
或る夜の幻想(1・3)
1 彼女の部屋
彼女には
美しい洋服箪笥(ようふくだんす)があった
その箪笥は
かわたれどきの色をしていた
彼女には
書物や
其(そ)の他(ほか)色々のものもあった
が、どれもその箪笥(たんす)に比べては美しくもなかったので
彼女の部屋には箪笥だけがあった
それで洋服箪笥の中は
本でいっぱいだった
3 彼 女
野原の一隅(ひとすみ)には杉林があった。
なかの一本がわけても聳(そび)えていた。
或(あ)る日彼女はそれにのぼった。
下りて来るのは大変なことだった。
それでも彼女は、媚態(びたい)を棄てなかった。
一つ一つの挙動(きょどう)は、まことみごとなうねりであった。
夢の中で、彼女の臍(おへそ)は、
背中にあった
(「新編中原中也全集」第1巻より。新かなに変えてあります。編者。)
◇
今回はここまで。
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