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2018年5月13日 (日)

中原中也・詩の宝島/ランボーを介した交流<はじまり・その23>/「或る男の肖像」の彼女

 

 

「或る夜の幻想(一、三)」は

続いてこの詩「或る男の肖像」を読むように誘います。

 

 

或る男の肖像

 

   1

 

洋行(ようこう)帰(がえ)りのその洒落者(しゃれもの)は、

齢をとっても髪に緑の油をつけてた。

 

夜毎(よごと)喫茶店にあらわれて、

其処(そこ)の主人と話している様はあわれげであった。

 

死んだと聞いてはいっそうあわれであった。

 

   2

      ――幻滅は鋼(はがね)のいろ。

 

髪毛の艶(つや)と、ランプの金との夕まぐれ

庭に向って、開け放たれた戸口から、

彼は戸外(そと)に出て行った。

 

剃(そ)りたての、頸条(うなじ)も手頸(てくび)も

どこもかしこもそわそわと、

寒かった。

 

開け放たれた戸口から

悔恨(かいこん)は、風と一緒に容赦(ようしゃ)なく

吹込(ふきこ)んでいた。

 

読書も、しんみりした恋も、

あたたかいお茶も黄昏の空とともに

風とともにもう其処にはなかった。

 

   3

 

彼女は

壁の中へ這入(はい)ってしまった。

それで彼は独り、

部屋で卓子(テーブル)を拭(ふ)いていた。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)

 

 

この詩「或る男の肖像」は

「在りし日の歌」に収録されて広く知られていますが

元は、

1 彼女の部屋

2 村の時計

3 彼女

4 或る男の肖像

5 無題

6 壁

――という6節構成の詩「或る夜の幻想」の第4節、第5節、第6節でした。

 

「在りし日の歌」では

6節のうちの

彼女を主語にした第1節と第3節は収録されず

第2節が「村の時計」として独立して収録され

第4節、第5節、第6節が「或る男の肖像」として独立して収録されました。

 

「或る男の肖像」にも

彼女が最終節に現われますが

彼女は壁の中へ這入ってしまうのです。

 

 

壁の中に這入ってしまうところ。

 

ここに

彼女の臍(おへそ)は、

背中にあった

――という詩行の反響があります。

 

小林秀雄の手記断片にある

いんげん豆が椅子を降りて来る夢

――にも通じるシュールな映像(イメージ)です。

 

 

今回はここまで。

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