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2018年5月25日 (金)

中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/三富朽葉の「魂の夜」

 

 

三富朽葉は

フランス詩を早稲田大学に入った頃から学びはじめ

没するまでのおよそ10年間

自らの創作詩に摂取したり

詩や評論の翻訳にも早くから取り組みました。

 

翻訳は

ボードレール

マラルメ

ヴェルハーレン

アルチュール・ランボー

――らの象徴主義の詩および詩論におよびました。

 

 

自作詩のなかでも

どうしてもここで読んでおきたい散文詩「魂の夜」には

「1911―1912」という制作年が記されています。

 

明治44、45年に作られた詩です。

 

 

魂の夜

 

 もはや、秋となつた。やがて此の明るい風物に続いて、鴉の群れが黒い礫のやうに灰色の

空を飛び散る、鬱陶しい冬が来るであらう。

 四季と群集との中に在つて、脆く苦い、また物怖ぢする私の生命をば運命は異様に麗しく

飾つた。私は常に感性の谷間を彷徨つて空気から咽喉へ濃い渇きを吸つた。又、夢魔に

圧されるやうな私のか碧い生活の淵にも、時時幽妙な光りが白んで煌いた。幽玄と酷薄と

の海に溺れて、私の紅い祈禱と生命の秘鍵とは永久に沈み入るであらう。

 秋の夜の長い疲労の後、私は眠られぬまま、とりとめのない、やや熱に浮かされたやうな

物思ひに耽つてゐた。

 

 私は何処とも知れぬ丘の上に、ゆるやかなマントオに身を包ませて、土塗れのまま横はつ

ている。眼の上には一旒の黒い旗がどんよりと懸かつていて、その旗は夏の白日の太陽

の輝くやうに烈しく私の額を照した。

 

 私は薄ら明りの高窓から海底のやうな外を覗いた。遠方にもう夜が静かに紅い翅を伸し拡

げ、蒼い瞳を見開いてゐる。私の唯一の宝はおもむろに彼方の夜の中に掻き消えてしま

つた。

 

 泉の周辺に色や匂ひが一杯に溢れてゐる。その傍を獣は一匹づつ、人は一人づつ、長い

間を置いて走る。獣は光の如く飛び、人は悲鳴を挙げた。いつまで見ていても影は一つづ

つであつた。

 

 私は何といふこともなく涙を落した。そして⦅愛⦆に対する消し難い悲歎に襲はれた。

 

 眼が覚めると、もう朝であつた! 雨の音と、そして、例へば牢獄の中へ僅かに射し入るよ

うな薄白い光線とが取り乱した身の周囲に零れてゐる……。

 

(牧神社「三富朽葉研究」中の村松剛「三富朽葉」より。)

 

 

この詩に

ボードレールの反響を見る人もいれば

マラルメの影を読む人もいますが

仏文学者、村松剛はとりわけアルチュール・ランボーの形跡があるのを

鋭敏に見て取りました。

 

 

「魂の夜」の冒頭の一節は、ボオドレールの「秋の歌」の反響を感じさせる。しかしそれは

はじめの数行だけで「もはや秋となつた」L’automne dèjà! をはじめ「生命の秘鍵」、「泉」と

「獣」、「牢獄」等の措辞は、明らかにむしろ『地獄の季節』『イリュミナシオン』から直輸入の

ものだろう。「魂の夜」という表題自体が、ランボオの「地獄の夜」を連想させる。

 

ランボオは『地獄の季節』や『イリュミナシオン』の中で、いくどか自分の過去をふりかえり、

それをいくつかの輝く断片として羅列して、たとえばこれに「青春」とか「生活」とかいう題を

付した。

 

「生活表」に収められた「魂の夜」「生活表」等の散文詩は、構成の上でも、その直接の影

響下に立っているのである。

 

(同上書より。)

 

 

三富朽葉は

小林秀雄に10余年先立ち

「アルチュール・ランボオ伝」を書きました。

 

ランボーの詩では、

「わがさすらひ」

「SENSATION」

「生ひ立ち」

――の3作を訳しただけでしたが。

 

 

今回はここまで。

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