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2018年5月30日 (水)

中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「暗い天候三つ」

 

 

「ブリュッセル」の詩行の

発声練習の音節のようなものが

「冬の雨の夜」に現われたのは

死んだ乙女たちの声のイメージが

誘い出されたからでしょう。

 

土砂降りの雨が

死んだ乙女たちを呼んだのです。

 

 

「冬の雨の夜」は

初出の「白痴群」第5号(1930年1月1日発行)では

「暗い天候三つ」というタイトルの

3節構成の第1節でした。

 

「山羊の歌」に収録されたときに

第1節が独立し

「冬の雨の夜」のタイトルがつけられました。

 

第2節と第3節は

以後、再公開されることは無かったのですが

ここに死んだ女たちの声につながる

ヒントが見つかるかもしれません。

 

「新編中原中也全集」には

「生前発表詩篇」の中に

「暗い天候(二・三)」として収録されています。

 

 

暗い天候(二・三)

 

   二

 

こんなにフケが落ちる、

   秋の夜に、雨の音は

トタン屋根の上でしている……

   お道化(どけ)ているな――

しかしあんまり哀しすぎる。

犬が吠える、虫が鳴く、

   畜生(ちくしょう)! おまえ達には社交界も世間も、

ないだろ。着物一枚持たずに、

   俺も生きてみたいんだよ。

吠えるなら吠えろ、

   鳴くなら鳴け、

目に涙を湛(たた)えて俺は仰臥(ぎょうが)さ。

   さて、俺は何時(いつ)死ぬるのか、明日(あした)か明後日(あさって)か……

――やい、豚、寝ろ!

こんなにフケが落ちる、

   秋の夜に、雨の音は

トタン屋根の上でしている。

   なんだかお道化ているな

しかしあんまり哀しすぎる。

 

   三

 

この穢(けが)れた涙に汚れて、

今日も一日、過ごしたんだ。

暗い冬の日が梁(はり)や壁を搾(し)めつけるように、

私も搾められているんだ。

赤ン坊の泣声や、おひきずりの靴の音や、

昆布や烏賊(するめ)や洟紙(はながみ)や首巻や、

みんなみんな、街道沿(かいどうぞ)いの電線の方へ

荷馬車の音も耳に入らずに、舞い颺(あが)り舞い颺り

吁(ああ)! はたして昨日が晴日(おてんき)であったかどうかも、

私は思い出せないのであった。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)

 

 

「二」は、秋の夜を、

「三」は、暗い冬の夜を歌っています。

 

「三」では、雨は降っていません。

 

これに「冬の雨の夜」となる前の「一」が加わり

一体の詩でした。

 

「一」は土砂降りの雨の夜です。

 

 

季節が変わるほどに長い時間が

元の詩「暗い天候三つ」には流れていました。

 

詩全体は

「三」の終行、

 

吁(ああ)! はたして昨日が晴日(おてんき)であったかどうかも、

私は思い出せないのであった。

 

――という混乱、茫然自失の流れに向っています。

 

この流れに詩人を追いやったものは

何だったのでしょうか。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

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