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2018年5月31日 (木)

中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/亡き乙女たちと「深夜の思い」

 

 

「朝の歌」

「臨終」

「都会の夏の夜」

「秋の一日」

「黄昏」

「深夜の思い」

「冬の雨の夜」

「帰郷」

――という「山羊の歌」「初期詩篇」の並びに

ここで注目してみることにしましょう。

 

とりわけ

「深夜の思い」と

「冬の雨の夜」という

二つの詩のつながりについて。

 

そのためにここで

「深夜の思い」を呼び出してみます。

 

 

深夜の思い

 

これは泡立つカルシウムの

乾きゆく

急速な――頑(がん)ぜない女の児の泣声(なきごえ)だ、

鞄屋(かばんや)の女房の夕(ゆうべ)の鼻汁だ。

 

林の黄昏は

擦(かす)れた母親。

虫の飛交(とびか)う梢(こずえ)のあたり、

舐子(おしゃぶり)のお道化(どけ)た踊り。

 

波うつ毛の猟犬見えなく、

猟師は猫背を向(むこ)うに運ぶ。

森を控えた草地が

  坂になる!

 

黒き浜辺にマルガレエテが歩み寄(よ)する

ヴェールを風に千々(ちぢ)にされながら。

彼女の肉(しし)は跳び込まねばならぬ、

厳(いか)しき神の父なる海に!

 

崖の上の彼女の上に

精霊が怪(あや)しげなる条(すじ)を描く。

彼女の思い出は悲しい書斎の取片附(とりかたづ)け

彼女は直(じ)きに死なねばならぬ

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)

 

 

この詩に現れる、

 

頑(がん)ぜない女の児

鞄屋(かばんや)の女房

擦(かす)れた母親

マルガレエテ

――がどのような意味を背負っているのか

読み方はさまざまですが

マルガレエテだけは

長谷川泰子であることを疑えません。

 

第3連、第4連は

詩人を捨て去った泰子が

神の厳罰を受けるべき存在であることを

マルガレエテに見立てて歌っています。

 

 

「冬の雨の夜」に出てくる

亡き乙女たちは

この詩に現れる女たち(女の児を含めて)に起源を持ち

その中のマルガレエテ(長谷川泰子)のように

すでに死んでしまった世界の女性のイメージを

形象化したものではないでしょうか。

 

亡き乙女たちの「たち」が気になるところですが

マルガレエテを含む女性たちは

死んでしまったり

過去に遠ざかって思い出だけになったりした

亡き女たちと呼んでおかしくない

一群の存在と読むのは無理でしょうか。

 

長谷川泰子は

マルガレエテになった時に

すでに現実の長谷川泰子ではなく

物語の中の存在であり

その彼女は亡き乙女たちの一人なのでした。

 

 

今回はここまで。

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