中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/大木篤夫の「わが放浪」
「わが放浪」Ma Bohèmeの同時代翻訳として
「新編中原中也全集」が案内するもう一つの詩は
大木篤夫(後の大木惇夫)の制作です。
同全集にこちらは
掲出されていませんが
参考のために読んでおきましょう。
◇
わが放浪
俺は行く、裂けた衣嚢(かくし)に 両の拳(こぶし)を突ッ込んで。
今では俺の外套も 理想ばかりになつてしまつた。
俺は行く、大空の下を、ミューズよ、私はあなたの賛美者です。
――まあ、まあ、何と、すばらしい愛を夢見るものだ!
この一張羅の半ズボンには 大きな孔が一つ、それでも、
夢想家プチイ・プセエのこの俺は、行く道すがら韻を踏む。
俺の宿は大熊星座のなかにある、
俺の星々は高い空から珊々(さんさん)と鳴る、
俺は恍(うつと)りそれに聴き入る、路ばたに腰を下ろして、
かうした九月の美しい晩、額にかゝる露のしづくを
俺は感じる、芳しい葡萄酒のやうに。
かうした夜(よる)は、幻めいた影のさなかで、詩の韻を合はすのだ。
片足を胸の上まで持ちあげて、七絃琴でも奏(ひ)くやうに
ピイーン・ピイーンと弾(はじ)くのだ、破れた靴のゴム絲を!
(ARS「近代佛蘭西詩集」1928年初版より。)
◇
中原中也の日記や書簡などに
この詩を読んだ形跡を見ることはできませんが
読まなかったという確実な証拠が存在するものではありませんし
たとえば古本店でふとした折に立ち読みしたとか
知人が所有しているのを読ませてもらったとか
そういうことがあった可能性を否定できるものでもありません。
ランボー翻訳の同時代の状況や空気などを
知っておいて無駄なことではないでしょう。
◇
今回はここまで。
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