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2018年6月 2日 (土)

中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/トタン屋根に降る雨から亡き乙女たちの声へ

 

 

詩人は自ら作った詩の発生の謎を

たやすくは明かさないもののようですね。

 

オ イア イオ、イア、イア イオ……。

 

それは「ブリュッセル」では

鳥の声だったのですが

「冬の雨の夜」では

亡き乙女たちの声に変成したのです。

 

――という読みは個人の勝手な想像です。

 

空想に近いかもしれませんが

空想にも根拠はあったとは言えるでしょう。

 

 

根拠を補強するために

もう少し空想を飛んでみましょう。

 

「冬の雨の夜」は

「暗い天候」の(二)に連続していましたね。

 

この二つの詩を

つなげて読んでみます。

 

 

 冬の黒い夜をこめて

どしゃぶりの雨が降っていた。

――夕明下(ゆうあかりか)に投げいだされた、萎(しお)れ大根(だいこ)の陰惨さ、

あれはまだしも結構だった――

今や黒い冬の夜をこめ

どしゃぶりの雨が降っている。

亡き乙女達(おとめたち)の声さえがして

aé ao, aé ao, éo, aéo éo!

 その雨の中を漂いながら

いつだか消えてなくなった、あの乳白の脬囊(ひょうのう)たち……

今や黒い冬の夜をこめ

どしゃぶりの雨が降っていて、

わが母上の帯締(おびじ)めも

雨水(うすい)に流れ、潰(つぶ)れてしまい、

人の情けのかずかずも

竟(つい)に密柑(みかん)の色のみだった?……

 

 

こんなにフケが落ちる、

   秋の夜に、雨の音は

トタン屋根の上でしている……

   お道化(どけ)ているな――

しかしあんまり哀しすぎる。

犬が吠える、虫が鳴く、

   畜生(ちくしょう)! おまえ達には社交界も世間も、

ないだろ。着物一枚持たずに、

   俺も生きてみたいんだよ。

吠えるなら吠えろ、

   鳴くなら鳴け、

目に涙を湛(たた)えて俺は仰臥(ぎょうが)さ。

   さて、俺は何時(いつ)死ぬるのか、明日(あした)か明後日(あさって)か……

――やい、豚、寝ろ!

こんなにフケが落ちる、

   秋の夜に、雨の音は

トタン屋根の上でしている。

   なんだかお道化ているな

しかしあんまり哀しすぎる。

 

(「新編中原中也全集」第1巻「詩Ⅰ」より。)

 

 

こういう形で完成された詩は

存在しません。

 

二つの詩の区切りがわかるように

*を仮に入れてあります。

 

どうでしょうか?

 

連続しないことが

はっきりしますか?

 

 

トーンとか文体とか

方法とか口ぶりとかは

連続しませんが

どちらも雨の夜であり

前の方が冬の夜で

後の方が秋の夜であることを

ふたたびここで確認できます。

 

そういう意味では

連続していることがわかりますね。

 

 

おそらく

この二つの詩は

別の時期に制作されただけで

同じ題材、同じモチーフ(動機)の詩であり

同じテーマの詩であろうことがわかります。

 

伝え方や口ぶりが異なるだけ。

 

中身は同じだけれど

外形が違うだけ。

 

中身の底にあるものは

同一もしくは同質のもの。

 

 

先に作られたのは後の詩で

次に作られたのは前の詩。

 

お道化調から

深刻調へ移調しました。

 

トタン屋根を叩く雨の音は

aé ao, aé ao, éo, aéo éo

亡き乙女たちの声に変りました。

 

この時に

ランボーの詩のイメージが出現します。

 

 

今回はここまで。

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