中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「木蔭」の空
◇
木蔭
神社の鳥居が光をうけて
楡(にれ)の葉が小さく揺すれる
夏の昼の青々した木蔭(こかげ)は
私の後悔を宥(なだ)めてくれる
暗い後悔 いつでも附纏(つきまと)う後悔
馬鹿々々しい破笑(はしょう)にみちた私の過去は
やがて涙っぽい晦暝(かいめい)となり
やがて根強い疲労となった
かくて今では朝から夜まで
忍従(にんじゅう)することのほかに生活を持たない
怨みもなく喪心(そうしん)したように
空を見上げる私の眼(まなこ)――
神社の鳥居が光をうけて
楡の葉が小さく揺すれる
夏の昼の青々した木蔭は
私の後悔を宥めてくれる
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)
◇
「木蔭」の現在は
神社の森で
楡の木蔭に詩人はいます。
木蔭が
後悔をやわらげてくれる――。
そのことを歌う現在なのですが
木蔭が与えてくれる
安らぎのひとときの背後には
馬鹿々々しい破笑にみちた私の過去があります。
やすらぎの現在を歌うのですが
その裏には
後悔ばかりの過去が
ぎゅうぎゅう詰めに犇めいています。
後悔はいつまでもつきまとい
涙っぽい晦冥の日々。
忍従
喪失
……。
◇
身心ともに疲労の極に
詩人はあります。
たった今
木蔭のやすらぎの中にある詩人のこころは
後悔にめげそうです。
こころは折れそうになり
空を見上げるばかりです。
◇
空に
いったい
何が見えるでしょうか。
◇
途中ですが
今回はここまで。
« 中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「少年時」後半部の時(とき) | トップページ | 中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「失せし希望」の空 »
「064面白い!中也の日本語」カテゴリの記事
- 中原中也・詩の宝島/ベルレーヌーの足跡(あしあと)/「ポーヴル・レリアン」その3(2018.08.11)
- 中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「心象」の空(2018.06.28)
- 中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「少年時」から「夏」へ(2018.06.27)
- 中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「失せし希望」の空(2018.06.24)
- 中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「木蔭」の空(2018.06.23)
« 中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「少年時」後半部の時(とき) | トップページ | 中原中也・詩の宝島/ランボーの足跡(あしあと)/「失せし希望」の空 »
コメント