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2018年7月25日 (水)

中原中也・詩の宝島/ベルレーヌーの足跡(あしあと)/「アルテュル・ランボオ」その4「母音」

 

 

中原中也がこの「アルテュル・ランボオ」を翻訳したのは

訳稿Aが1932年(昭和7年)、

訳稿Bが1929年(昭和4年)~1930年(昭和5年)と推定されています。

 

そして、文中に引用された詩の翻訳は

1937年発行の「ランボオ詩集」で改められます。

 

ということで

「アルテュル・ランボオ」の翻訳は第1次形態、

「ランボオ詩集」の翻訳は第2次形態として整理されます。

 

初訳から7、8年後に

詩の部分だけ新訳が試みられたことになりますが

「母音」のケースにも

目を通しておきましょう。

 

先に「アルテュル・ランボオ」中の翻訳

次に「ランボオ詩集」中の翻訳を読みます。

 

 

     母 音

 

A黒、E白、I赤、U緑、O青、母音達よ、

私は語るだろう、何時の日か汝等が隠密の由来を。

A、黒、光る蠅で毛むくじゃらの胸部

むごたらしい悪臭のめぐりに跳び廻る、

暗き入海。E、気鬱と陣営の稚淳、

投げられし誇りかの氷塊、真白の王、繖形花の顫え。

I、緋色、喀かれし血、美しき脣々の笑い――

怒りの裡、悔悛の熱意の裡になされたる。

 

U、天の循環、蒼寒い海のはしけやし神々しさ、

獣ら散在せる牧場の平和、錬金道士が

真摯なる大きい額に刻んだ皺の平和。

 

O、擘(つんざ)く音の至上の軍用喇叭、

人界と天界を横ぎる沈黙(しじま)

――おお いやはてよ、菫と閃く天使の眸よ!

 

(「新編中原中也全集」第3巻「翻訳」より。新かな、洋数字に変えました。編者。)

 

 

母 音

 

Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Oは赤、母音たち、

おまえたちの穏密な誕生をいつの日か私は語ろう。

A、眩ゆいような蠅たちの毛むくじゃらの黒い胸衣(むなぎ)は

むごたらしい悪臭の周囲を飛びまわる、暗い入江。

 

E、蒸気や天幕(テント)のはたためき、誇りかに

槍の形をした氷塊、真白の諸王、繖形花顫動(さんけいかせんどう)、

I、緋色の布、飛散(とびち)った血、怒りやまた

熱烈な悔悛に於けるみごとな笑い。

 

U、循環期、鮮緑の海の聖なる身慄い、

動物散在する牧養地の静けさ、錬金術が

学者の額に刻み付けた皺の静けさ。

 

O、至上な喇叭(らっぱ)の異様にも突裂(つんざ)く叫び、

人の世と天使の世界を貫く沈黙。

――その目紫の光を放つ、物の終末!

 

(同。)

 

 

ベルレーヌが「母音」に加えたコメントを

箇条書きに直してみれば、

 

1、14行詩、8行詩、4、5乃至6行を一節とする詩。彼は決して平板な韻は踏まなかった。

2、しっかりした構え、時には凝ってさえいる詩。

3、気儘な句読は稀であり、句の“跨り”は一層稀である。

4、語の選択は何時も粋で、趣向に於ては偶々学者ぶる。

5、語法は判然としていて、観念が濃くなり、感覚が深まる時にも猶明快である。

6、加之(のみならず)謂うべきその韻律。

 

――となります。

 

韻、韻律、句読、句跨りなどと

具体的な指摘を加えているほか

趣向に於ては偶々学者ぶる、

とか、

語の選択は何時も粋で、

観念が濃くなり、感覚が深まる時にも猶明快である。

とかの評言に

ベルレーヌの鋭い読みがあります。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

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