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2018年8月18日 (土)

中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「Never More」その2

 

 

Nevermoreは

エドガー・アラン・ポー(1809~1849)の名作「大鴉」The Ravenで

各連の終りに繰り返されるリフレイン(ルフラン)です。

 

シャルル・ボードレール(1821~1869)の紹介以後

フランス国内に知れ渡ることになったこの詩に

ベルレーヌが触れたのは必然の流れでした。

 

ポール・ベルレーヌ(1844~1896)の第1詩集「サチュルニアン詩集」は

1886年に発行されましたが

「Nevermore」を第2番詩に置きます。

 

ベルレーヌは

ポーの長詩をパロッたものではなく

ベルレーヌ独自の恋歌として

ソネットに歌いました。

 

中原中也がベルレーヌの著作集を入手したのは

1926年(大正15・昭和元年)ですが

第2番にあったこの詩を読んだのは

それから間もない時であったことが推測できます。

 

中原中也のこの頃といえば

長谷川泰子を失った直後になります。

 

 

Never More     ポール・ヴェルレーヌ

 

憶ひ出よ、憶ひ出よ、おまへ、どうしようといふのだ? 秋は

気拙い空に鶫を飛ばし、

して太陽は、ひといろの光を投げてゐた

黄色になりゆく森の上に――其処で北風の捲き起る。

 

私達だけだつた夢見心地で歩いていつた、

彼女と私と、髪の毛と思ひとを風に晒して。

ふと、私の方にその瞳は向けられて、

あなたのいとも良い日はどうしましたとその声が。

 

その声はやさしい朗らかな声で、祈りの鐘のやうに爽やかだつた。

つつましい微笑で私はそれに答へた、

それから私はその白い手に接唇けた、敬虔な心持で。

 

――ああ! その薫つてゐた初花!

そしてそれが響かしたかあいい

にこやかな脣から出た最初の“Oui”!

 

(「新編中原中也全集」第3巻「翻訳」より。)

 

 

ベルレーヌの原作は「Nevermore」ですが

中原中也は「Never More」としました。

 

鈴木信太郎は「また還り来ず」

堀口大学は「かえらぬ昔」です。

 

「新編中原中也全集」はほかに

永井荷風「返らぬむかし」

新城和一「Never More」

川路柳虹「かへらぬむかし」

竹友藻風「またかへらず」

――を紹介しています。

 

 

詩のはじまりが思い出を問うているのですから

そこからタイトルにする流れが出来たようですね。

 

中也は

それに違和感を抱いたのかもしれませんが

この時、新城和一訳を参照したのかどうか

それはわかりません。

 

 

この詩の女性は

ベルレーヌの第1詩集「サチュルニアン詩集」の発行費用を負担した

8歳年上の従姉エリザとする説が流布しています。

 

「サチュルニアン詩集」出版当時

デュジャルダン夫人であったこの従姉は

詩集が出た翌年に他界します。

 

中原中也がこのあたりに通じていたかはわかりませんが

心と心が秋風に靡くままに一体になった男女の

静かに燃えるような接吻(べーぜ)の

完璧な(という言い方しか今思い浮かびませんが)瞬間を歌った

ベルレーヌの詩の核心を捉えています。

 

第2連

あなたのいとも良い日はどうしましたとその声が。

――を読んだ初めのうちは

インパクトに欠けるかなどと感じていましたが

その「いとも良き日」こそ今なのだ

あの日、私はその今を彼女に伝えることができた幸福を

忘れはしないNevermore(もはや決して)と読めるようになって

やはりここには中原中也があると理解します。

 

エリザのエピソードを知らなくても

この詩を読むことができることでしょうが

知っていてマイナスになることもありません。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

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