中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「Never More」
中原中也が訳したベルレーヌに関する散文は
生前発表されたものとして
「ポーヴル・レリアン」のほかに
「トリスタン・コルビエール」があり
この2作が「呪われた詩人たち」に収録されましたが
「アルテュル・ランボオ」は
未完成(生前未発表)になりました。
散文で生前発表された翻訳では
レッテの「ヴェルレーヌ訪問記」や
ランボーがベルレーヌに宛てた書簡2通があり
ベルレーヌを「外」から捉えたまなざしを
中原中也が研究した形跡があります。
ベルレーヌが書いた評論(コルビエール、ランボー、ベルレーヌ自身)
ベルレーヌへのインタビュー記事(レッテ)
ランボーがベルレーヌに宛てた手紙
――とを
中也は、読み翻訳して
ベルレーヌの輪郭を掴もうとした戦略が
よくわかるラインアップと言えるでしょう。
ベルレーヌという人物のアウトラインを掴んで
中也が同時的に目指したのは
ベルレーヌの詩作品でした。
中原中也が訳したベルレーヌの詩のその一つを
まず読みましょう。
◇
Never More ポール・ヴェルレーヌ
憶ひ出よ、憶ひ出よ、おまへ、どうしようといふのだ? 秋は
気拙い空に鶫を飛ばし、
して太陽は、ひといろの光を投げてゐた
黄色になりゆく森の上に――其処で北風の捲き起る。
私達だけだつた夢見心地で歩いていつた、
彼女と私と、髪の毛と思ひとを風に晒して。
ふと、私の方にその瞳は向けられて、
あなたのいとも良い日はどうしましたとその声が。
その声はやさしい朗らかな声で、祈りの鐘のやうに爽やかだつた。
つつましい微笑で私はそれに答へた、
それから私はその白い手に接唇けた、敬虔な心持で。
――ああ! その薫つてゐた初花!
そしてそれが響かしたかあいい
にこやかな脣から出た最初の“Oui”!
(「新編中原中也全集」第3巻「翻訳」より。)
◇
シャルル・ボードレールが
エドガー・アラン・ポーの名作「大鴉」を
フランス語に翻訳・紹介したのは
1853年のことでした。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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