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2018年8月23日 (木)

中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「言葉なき恋歌」より・その3/川路柳虹訳

 

 

 

Ⅴ (たをやけき手の接唇くるそのピアノ)     ポール・ヴェルレーヌ

     ほがらかのクラヴサン

     その嬉しさよ、うるささよ。    ペトリュス・ボレル

 

たをやけき手の接唇(くちづ)くるそのピアノ

きらめけり薔薇と灰とのおぼろなる夕(ゆふべ)の裡に、

軽やかに羽搏く音かその音色

疲れて弱く媚やかに、

物怖ぢしたる如くにも、ためらひつつは去(あ)れもゆく、

移り香ながき部屋よりは。

 

ふとし遇ふこの揺籃(ゆりかご)のいかならん

たゆけくも今日をし生くるわれを慰む。

何をかわれに欲りすとや、戯唄(ざれうた)とてか。

何をかわれに欲りしけるとらへがたなき折返し、

絶えんとするにあらざるや、細目に開けし

窓よりは、木庭の方(かた)へ

 

(「新編中原中也全集」第3巻「翻訳」より。ルビは中原中也が振ったものだけを表記しました。編者。)

 

 

ベルレーヌが歌ったのは

千々に乱れる思いだったのでしょうか。

 

いや、こういう問いの立て方は

詩を見失うことになるでしょう。

 

千々に乱れているのは確かですが

ベルレーヌの気持ちは

すでに決まっています。

 

決まった上で、

何をかわれに欲りすとや

――と心はマチルドに問い

いつまでも弾きやまないピアノの音色に

聴き耳を立てています。

 

 

未完成でありますが

中也の翻訳は

ベルレーヌを真芯(ましん)に捉えています。

 

文語に訳したのは

幾分か嫋嫋(じょうじょう)とした響きを

抑制する狙いがあったからでしょうか。

 

こう書いたところで

口語自由詩運動の旗手、川路柳虹の訳が見つかりましたので

それを読みましょう。

 

 

「忘れられた小唄」Ⅴ

   かぎりなきかの歓びはうち鳴らすピアノなり

                    ――ペトリューボレル――

 

繊弱(かよわ)き手もてうち触るゝピアノの音(ね)

朧ろに暗き薔薇色の薄暮(かはたれ)どきに輝けり、

さはれいとも軽やかの羽音もて、

昔ながらのひと節(ふし)はいと脆(もろ)くいと魅(まど)はしく、

恐るゝごとき気はひもてひそやかに、

彼女(かのひと)の移り香こめし化粧の間にぞ鳴り響く。

 

静やかにこの憐れなる身を揺する

思ひもかけぬ眠りの歌は何ならむ

めづらかに優しきひゞき何をか吾に求むらむ、

きゝとれがたきその最後(いやはて)の繰返句(ルフラン)は

こころもち少き庭園(には)に打ちひらく

窓の際より消えゆくものを。

 

(「新編中原中也全集」第1巻「詩Ⅰ解題篇」中「春の夜」解題より。)

 

 

ベルレーヌだから

文語定型に翻訳したのは

詩人の意図があったからでしょう。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

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