カテゴリー

2024年1月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

« 中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「序曲」の謎・その2 | トップページ | 中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「序曲」の謎・その4 »

2018年9月16日 (日)

中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「序曲」の謎・その3

 

 

どのようにして大岡昇平が「序曲」のテキストを入手し

そもそもどの刊本だったのか。

 

「新編中原中也全集」は

Paul Verlaine:Femmes, imprimé sous le manteaux et ne se vend nulle part,1890

――を原典として推定しています。

 

大岡昇平が所蔵していたのが

この刊本であることは確定できていないようです。

 

 

Femmes(「女たち」)というタイトルの詩集は

ベルギーで、1890年初版、175部限定で秘密出版され

1893年にはロンドンで500部限定で再版

これを機に他にも幾つかの刊本が

秘密出版されました。

 

エロティシズムの迫力からか

ベルレーヌの作品だからか

この種の出版は

小部数ながらおおむね好評で

ヨーロッパ各地に「女たち」は迎えられたようですが

それにしても秘密裡の出版であることは避けられませんでした。

 

「序曲」Overtureは

詩集冒頭に置かれた序詩です。

 

この序詩と末尾の「要約的な教訓」Morale en raccourciとを除くと

計16篇の詩篇が収められてあり

この16篇すべてにローマ数字による通し番号がつけられています。

(同全集解題。)

 

「序曲」は全9連36行の構成。

 

中原中也の翻訳として知られているのは

この9連のうちの冒頭部2連8行です。

 

 

さて、では、

中原中也自筆の翻訳原稿が

存在するのかというとはっきりしたものではなく

中也の訳稿に基づいたと推定(!)される2種類の草稿があります。

 

それは筆写稿①、筆写稿②とに

便宜上分類されているものです。

 

やや込み入っていますが

それを記述している

「新編中原中也全集」第3巻「翻訳・解題篇」を

ひもといてみましょう。

 

 

筆写稿①の有力証言に高橋新吉が現われ

筆写稿②には高橋幸一が現われます。

 

高橋新吉は

「ダダイスト新吉の詩」で知られる

中也の師匠格のダダイスト、

高橋幸一については

新全集はなんの説明を加えていませんが

どうやら「四季」に出入りしていたか

なんらかの関係がある人物くらいのことを

ネットで知ることができます。

 

 

筆写稿①は

旧全集(「中原中也全集」)編集時には

高橋新吉の所蔵品として存在していたが

現在はそのコピーが残っているもので

原詩の第1連と第2連が訳されてあり

作者名、訳者名は書かれていません。

 

高橋新吉は

「ベルレーヌの猥詩を、二つ、中原は、訳してくれたことがある。或雑誌に掲載するため、中原に依頼したのであった」

――と「中原中也の思い出」(「解釈と鑑賞」昭50.3)に記しているそうです。

 

二つ、とあるベルレーヌの猥詩のうちの一つが

「序曲」と推定されています。

 

 

筆写稿②は

旧全集で、

中原中也が「高橋幸一に手渡したもの」とされていますが

筆跡は中也のものではなく

原稿用紙も中也が愛用していたものではなく

筆記具も中也の使用例にないもの。

 

そのため

この草稿は中也の自筆ではないとされていますが

中に「夏原冲也」の名前があり

中原中也の筆名であろうと推定されています。

 

猥詩であることを考慮し

本名を記すことを控えたものと考えられています。

 

 

筆写稿①も②も

「序曲」の冒頭8行だけが記されてあることから

中也が翻訳したのも

この部分だけであったものと考えられました。

 

 

「序曲」を訳した1932年(昭和7年)は

詩人25歳の年。

 

4月に「山羊の歌」の編集に取りかかっています。

 

詩人の最も近くにあり

詩人を助け

相談に乗り

酒を共に飲んだ安原喜弘は

この時期の中原中也を

「魂の動乱時代」と呼んで回想しています。

(講談社文芸文庫「中原中也の手紙」。)

 

ゴッホ伝の代筆の仕事は

この流れの中で進められていたもので

年末には玉川大学出版部から発刊されますが

中也は著者名にペンネーム千駄木八郎を提案します。

 

同じ年に

「序曲」の翻訳者として

夏原冲也というペンネームが使われていたことになります。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

« 中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「序曲」の謎・その2 | トップページ | 中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「序曲」の謎・その4 »

054中原中也とベルレーヌ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「序曲」の謎・その2 | トップページ | 中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「序曲」の謎・その4 »