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2018年9月 4日 (火)

中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/「序曲」の謎・その1

 

 

中原中也の初期作品のうち

「山羊の歌」集中の

第2番詩「月」

第3番詩「サーカス」

第4番詩「春の夜」

――の3作品に

ボードレールやベルレーヌらの外国詩人の影響があり

これらの詩がダダイズムからの脱皮の過程で作られていることは

一目瞭然ですね。

 

第5番詩「朝の歌」を

ダダイズム脱皮の完成と見なす

大岡昇平の評伝に異論をはさむ読みには

今でもあまり巡りあいません。

 

たとえば「サーカス」の人気は

「朝の歌」を超えているのにそうであるのは

「朝の歌」のオリジナリティーを評価する

大岡や小林秀雄や

ほか多くの声が大きいからです。

 

同じ理由で

「港市の秋」など

一連の横浜ものも

「朝の歌」を頂点とする評価(好み)の

下部に置かれているのが実情でしょう。

 

「朝の歌」以後の「初期詩篇」にも

「春の思い出」や「秋の夜空」など

たとえ詩の優劣を競っても

「朝の歌」に引けを取らない詩が幾つもあり

キラキラとキラキラと輝いているのに。

 

 

誰からの影響も受けていないという一事が

詩の形の上で達成されていることが

詩世界にデビューする中原中也には要求されていました。

 

どんな詩の模倣でもないということは

昔も今も変わっていない

詩人の必須の要件でしょう。

 

「詩的履歴書」に

大正15年5月、「朝の歌」を書く。7月頃小林に見せる。それが東京に来て詩を人に見せる
最初。つまり「朝の歌」にてほぼ方針立つ。方針は立ったが、たった14行書くために、こん
なに手数がかかるのではとガッカリす。

――と中也が記したのには

この理由がありました。

 

一字一句が

自分の言葉で書かれなければならないという掟(おきて)を

小林秀雄は中也に伝えたのでしょう。

 

大岡昇平は

そのことを全面的に支持して

評伝「朝の歌」を戦後に書きあげました。

 

中也の不満そうな響きを

「詩的履歴書」のこの部分に

認めないわけにはいきません。

 

この不満は表明したとしても

かき消されてしまうことでしょう。

 

 

「サーカス」や「春の夜」を

ベルレーヌの足跡を辿る中で読んだのには

このようなことをも考えるためでした。

 

この流れに乗って

「山羊の歌」の「初期詩篇」への

ベルレーヌの影響を見直す作業へと

誘惑されそうになり

それはなかなか魅力的なことですが

今それに取りかかることはやめておきましょう。

 

今はベルレーヌを中原中也が

どのように翻訳したかの足跡を

辿り終えることが先です。

 

 

とはいうものの

次に読むベルレーヌの詩の翻訳は

創作の謎について

考えさせるものを十分にもっています。

 

 

序曲

                 ポール・ヴェルレーヌ

 

私はおまへの腿(もも)や臀部(おしり)に専心したい。

唯一の真(まこと)の神なる辻君、真に比丘尼の比丘尼たる比丘尼よ、

美(をんな)よ、熟してゐようと熟してゐまいと、未熟だらうと修練を経たものであらうと、

もうはやもうおまへの裂け目、おまへの畝条(うねすぢ)に丈生きるこつた!

 

おまへの足は素晴らしい、情夫(をとこ)の所へしか行きはしない、

情夫とでなけあ帰つて来ないし、その床の中でしか

じつとしてゐはしない、それからこつそり情夫の足を打つのだが、

その情夫の足は疲れてぐつたりしてちゞこまつてゐるわけさ。

 

(「新編中原中也全集」第3巻「翻訳」より。原文のまま。)

 

 

中原中也がこの詩を翻訳したのは

1932年(昭和7年)7月下旬から8月の間のことでした(推定)。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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