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2018年10月20日 (土)

中原中也・詩の宝島/ベルレーヌの足跡(あしあと)/補足1・金子光晴その6

 

 

金子光晴の「現代詩の鑑賞」は

「日本の月光派の詩人たち」につづいて

「白秋の光明礼讃とその影響」の小題で

北原白秋のその後を追い

山村暮鳥

室生犀星

萩原朔太郎

――への流れをたどりますが

ここは端折(はしょ)って

次の「フランスのエレガンス的傾向」をひもときましょう。

 

この章を詩人は

ふたたびベルレーヌから説き起こします。

 

 

草の上  

ヱ゛ルレエヌ

 

法師(アベ)は呂律がまはらない。――そこな侯爵、

鬘がちよいと横つちょで。

――このシイプルの古酒の美味、

でも何さ、カマルゴどの、そちの頸に及びもないが。

 

――燃ゆる思ひは……――ド、ミ、ソル、ラ、シ。

――法師、そなたの悪計見やぶったり!

――奥さま方、あの星一つ外せぬやうなら

死んでお目にかかりませう。

 

――仔犬になりたや、なりたやな!

――次から次と女子衆を

抱くとしようぜ。――皆さん、さらば?

ド、ミ、ソル。――へへ、お月さま、おやすみなされ!

                  (堀口大学訳)

 

 

フィガロの世界にも通じる、この世界こそ御婦人方のサンスーシだ。

――と、この詩を読んで

金子光晴は開口一番述べます。

 

そう述べられても

フィガロも、サンスーシも知らない素人には

想像するほかないのですが

サンスーシSans souci が「憂いのない」という意味のフランス語で

有名なフリードリッヒ大王の宮殿の名前で

フィガロの方も結婚と結びついて多少は知っていますから

宮廷やそれを映した庶民の間の男女の恋の遊びのことを言っているものと

漠然とは推測できるでしょうか。

 

日本でいえば

坊さん、簪(かんざし)買うを見た♪

みたいな男女の道行きの一コマを

この「草の上」は歌っていると受け取れば

さして見当違いでもないでしょうか。

 

 

男女のことですから

もう少しエロチックなニュアンスを

イメージしたほうがよいかも知れません。

 

というのは

金子光晴は堀口大学が

「月下の一群」を翻訳していた頃の自作詩を

引き続き案内し

刺激的な読みを披瀝するからです。

 

 

遠い薔薇

      堀口大学

 

昔の恋がなつかしいので

遠い薔薇を私は思ふ。

 

うなだれた青い前額の

そのかみの日の情熱。

 

忘却の上に流れる

ほのかな匂ひの幽霊たち。

 

昔の恋がなつかしいので

遠い薔薇を私は思ふ。

 

 

彼女の靴下

      堀口大学

 

シュミーズはなほ取去る可かりしが

遂に彼女の靴下は

彼女の皮膚の一部なりしか

 

膝の上やや高きあたりより

皺もなき淡墨色の刺青の

すき見ゆる絹の夢

 

金いろの麦の穂の波

桃いろの形よき畝の間に燃え上る

美学の中心をややに遠ざかり

 

彼女の靴下は

ああ対照だ

合奏だ

 

(中央公論社「金子光晴全集」第10巻「現代詩の鑑賞」より。)

 

 

この二つの詩を並べて

このピエロは純情派であるとともに、少々エロティシズムだ。

――と金子光晴はコメントし

さらに

 

ナイロンがなかった昔のうすい絹靴下は、現実をよりうつくしくみせる道具だった。ベッドの

うえで全裸になる女も、靴下や靴ははいたまゝというのが、ヨーロッパ女の伊達か審美感

か、シャルムのあるものだった。

 

――とつけ加え

さらに

 

そして、この詩にはすでに、「海潮音」はなくなって、もっと自由な、明るい日本語になって

いるが、精神はやっぱり、有閑階級の女あさり、放蕩のよろこびがあの時代の感傷をもっ

て審美的に表現されている。詩人はたのしい人種だったあの時代。

――と結びます。

 

 

堀口大学の心臓部をつかんだような

この読みが

さりげないようですが

非凡にして貴重ですね。

 

そして

ここ(堀口大学の詩)にはベルレーヌがあり

このかるい調子は

ジュール・ラフォルグの

凝滞のない明るい詩風に受け継がれると展開していきます。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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