中原中也/秋の詩の名作コレクション1/漂々と口笛吹いて
漂々と口笛吹いて
漂々(ひょうひょう)と 口笛吹いて 地平の辺(べ)
歩き廻(まわ)るは……
一枝(ひとえ)の ポプラを肩に ゆさゆさと
葉を翻(ひるが)えし 歩き廻るは
褐色(かちいろ)の 海賊帽子(かいぞくぼうし) ひょろひょろの
ズボンを穿(は)いて 地平の辺
森のこちらを すれすれに
目立たぬように 歩いているのは
あれは なんだ? あれは なんだ?
あれは 単なる呑気者(のんきもの)か?
それともあれは 横著者(おうちゃくもの)か?
あれは なんだ? あれは なんだ?
地平のあたりを口笛吹いて
ああして呑気に歩いてゆくのは
ポプラを肩に葉を翻えし
ああして呑気に歩いてゆくのは
弱げにみえて横著そうで
さりとて別に悪意もないのは
あれはサ 秋サ ただなんとなく
おまえの 意欲を 嗤(わら)いに 来たのサ
あんまり あんまり ただなんとなく
嗤いに 来たのサ おまえの 意欲を
嗤うことさえよしてもいいと
やがてもあいつが思う頃には
嗤うことさえよしてしまえと
やがてもあいつがひきとるときには
冬が来るのサ 冬が 冬が
野分(のわき)の 色の 冬が 来るのサ
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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