中原中也/秋の詩名作コレクション16/追 懐
追 懐
あなたは私を愛し、
私はあなたを愛した。
あなたはしっかりしており、
わたしは真面目であった。――
人にはそれが、嫉(ねた)ましかったのです、多分、
そしてそれを、偸(ぬす)もうとかかったのだ。
嫉み羨(うらや)みから出発したくどきに、あなたは乗ったのでした、
――何故(なぜ)でしょう?――何かの拍子……
そうしてあなたは私を別れた、
あの日に、おお、あの日に!
曇って風ある日だったその日は。その日以来、
もはやあなたは私のものではないのでした。
私は此処(ここ)にいます、黄色い灯影に、
あなたが今頃笑っているかどうか、――いや、ともすればそんなこと、想っていたりするのです
(一九二九・七・一四)
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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