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2019年10月 7日 (月)

中原中也/秋の詩名作コレクション14/処女詩集序

処女詩集序

かつて私は一切の「立脚点」だった。
かつて私は一切の解釈だった。

私は不思議な共通接線に額して
倫理の最後の点をみた。

(ああ、それらの美しい論法の一つ一つを
いかにいまここに想起したいことか!)

その日私はお道化(どけ)る子供だった。
卑小な希望達の仲間となり馬鹿笑いをつづけていた。

(いかにその日の私の見窄(みすぼら)しかったことか!
いかにその日の私の神聖だったことか!)

私は完(まった)き従順の中に
わずかに呼吸を見出していた。

私は羅馬婦人(ローマおんな)の笑顔や夕立跡の雲の上を、
膝頭(ひざがしら)で歩いていたようなものだ。

これらの忘恩な生活の罰か? はたしてそうか?
私は今日、統覚作用の一欠片(ひとかけら)をも持たぬ。

そうだ、私は十一月の曇り日の墓地を歩いていた、
柊(ひいらぎ)の葉をみながら私は歩いていた。

その時私は何か?たしかに失った。

今では私は
生命の動力学にしかすぎない――――
自恃をもって私は、むずかる特権を感じます。

かくて私には歌がのこった。
たった一つ、歌というがのこった。

私の歌を聴いてくれ。

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
 

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