カテゴリー

2022年5月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« 中原中也/秋の詩名作コレクション32/月下の告白 青山二郎に | トップページ | 中原中也/秋の詩名作コレクション34/誘蛾燈詠歌 »

2019年10月22日 (火)

中原中也/秋の詩名作コレクション33/ 別 離

別 離

さよなら、さよなら!
いろいろお世話になりました
  いろいろお世話になりましたねえ
  いろいろお世話になりました

さよなら、さよなら!
  こんなに良いお天気の日に
  お別れしてゆくのかと思うとほんとに辛い
  こんなに良いお天気の日に

さよなら、さよなら!
  僕、午睡(ひるね)から覚(さ)めてみると
  みなさん家を空けておいでだった
  あの時を妙に思い出します

さよなら、さよなら!
  そして明日の今頃は
  長の年月見馴れてる
  故郷の土をば見ているのです

さよなら、さよなら!
  あなたはそんなにパラソルを振る
  僕にはあんまり眩(まぶ)しいのです
  あなたはそんなにパラソルを振る

さよなら、さよなら!
さよなら、さよなら!

(一九三四・一一・一三)

 僕、午睡から覚めてみると、
みなさん、家を空けておられた
 あの時を、妙に、思い出します

 日向ぼっこをしながらに、
爪摘(つめつ)んだ時のことも思い出します、
 みんな、みんな、思い出します

 芝庭のことも、思い出します
  薄い陽の、物音のない昼下り
 あの日、栗を食べたことも、思い出します

 干された飯櫃(おひつ)がよく乾き
 裏山に、烏(からす)が呑気(のんき)に啼いていた
 ああ、あのときのこと、あのときのこと……

 僕はなんでも思い出します
僕はなんでも思い出します
  でも、わけても思い出すことは

 わけても思い出すことは……
  ——いいえ、もうもう云えません
 決して、それは、云わないでしょう

忘れがたない、虹と花、
  忘れがたない、虹と花
  虹と花、虹と花

どこにまぎれてゆくのやら
  どこにまぎれてゆくのやら
  (そんなこと、考えるの馬鹿)

その手、その脣(くち)、その唇(くちびる)の、
  いつかは、消えて、ゆくでしょう
  (霙(みぞれ)とおんなじことですよ)

あなたは下を、向いている
  向いている、向いている
  さも殊勝(しゅしょう)らしく向いている

いいえ、こういったからといって
  なにも、怒(おこ)っているわけではないのです、
  怒っているわけではないのです

忘れがたない虹と花、
  虹と花、虹と花、
  (霙(みぞれ)とおんなじことですよ)

 何か、僕に、食べさして下さい。
何か、僕に、食べさして下さい。
   ‘きんとん’でもよい、何でもよい、
   何か、僕に食べさして下さい!

 いいえ、これは、僕の無理だ、
   こんなに、野道を歩いていながら
   野道に、食物(たべもの)、ありはしない。
   ありません、ありはしません!

向うに、水車が、見えています、
  苔むした、小屋の傍(そば)、
ではもう、此処(ここ)からお帰りなさい、お帰りなさい
  僕は一人で、行けます、行けます、
僕は、何を云ってるのでしょう
  いいえ、僕とて文明人らしく
もっと、他の話も、すれば出来た
  いいえ、やっぱり、出来ません出来ません


(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
  

« 中原中也/秋の詩名作コレクション32/月下の告白 青山二郎に | トップページ | 中原中也/秋の詩名作コレクション34/誘蛾燈詠歌 »

063中原中也の秋の詩/名作コレクション」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 中原中也/秋の詩名作コレクション32/月下の告白 青山二郎に | トップページ | 中原中也/秋の詩名作コレクション34/誘蛾燈詠歌 »