中原中也・朝の詩の名作6/港市の秋
港市の秋
石崖(いしがけ)に、朝陽が射して
秋空は美しいかぎり。
むこうに見える港は、
蝸牛(かたつむり)の角(つの)でもあるのか
町では人々煙管(キセル)の掃除(そうじ)。
甍(いらか)は伸びをし
空は割れる。
役人の休み日――どてら姿だ。
『今度生(うま)れたら……』
海員(かいいん)が唄(うた)う。
『ぎーこたん、ばったりしょ……』
狸婆々(たぬきばば)がうたう。
港(みなと)の市(まち)の秋の日は、
大人しい発狂。
私はその日人生に、
椅子(いす)を失くした。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
« 中原中也・朝の詩の名作5/悲しき朝 | トップページ | 中原中也・朝の詩の名作7/宿 酔 »
「066中原中也・朝の詩の名作コレクション」カテゴリの記事
- 中原中也・朝の詩の名作30/春と恋人(2020.01.02)
- 中原中也・朝の詩の名作28/朝(雀の声が鳴きました)(2019.12.31)
- 中原中也・朝の詩の名作27/夜明け(2019.12.30)
- 中原中也・朝の詩の名作26/朝(雀が鳴いている)(2019.12.29)
- 中原中也・朝の詩の名作25/朝(2019.12.28)
コメント