中原中也・朝の詩の名作17/夏(僕は卓子の上に)
夏(僕は卓子の上に)
僕は卓子(テーブル)の上に、
ペンとインキと原稿紙のほかになんにも載せないで、
毎日々々、いつまでもジッとしていた。
いや、そのほかにマッチと煙草と、
吸取紙くらいは載っかっていた。
いや、時とするとビールを持って来て、
飲んでいることもあった。
戸外(そと)では蝉がミンミン鳴いていた
風は岩にあたって、ひんやりしたのがよく吹込んだ。
思いなく、日なく月なく時は過ぎ、
とある朝、僕は死んでいた。
卓子(テーブル)に載っていたわづかの品は、
やがて女中によって瞬く間に片附けられた。
──さっぱりとした。さっぱりとした。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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