中原中也・朝の詩の名作2/臨 終
臨 終
秋空は鈍色(にびいろ)にして
黒馬(くろうま)の瞳のひかり
水涸(か)れて落つる百合花(ゆりばな)
ああ こころうつろなるかな
神もなくしるべもなくて
窓近く婦(おみな)の逝(ゆ)きぬ
白き空盲(めし)いてありて
白き風冷たくありぬ
窓際に髪を洗えば
その腕の優しくありぬ
朝の日は澪(こぼ)れてありぬ
水の音(おと)したたりていぬ
町々はさやぎてありぬ
子等(こら)の声もつれてありぬ
しかはあれ この魂はいかにとなるか?
うすらぎて 空となるか?
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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