中原中也・朝の詩の名作21/秋になる朝
秋になる朝
たったこの間まで、四時には明るくなったのが
五時になってもまだ暗い、秋来る頃の
あの頃のひきあけ方のかなしさよ。
ほのしらむ、稲穂にとんぼとびかよい
何事もなかったかのよう百姓は
朝露に湿った草鞋(わらじ)踏みしめて。
僕達はまだ睡(ねむ)い、睡気で頭がフラフラだ、それなのに
涼風は、おまえの瞳をまばたかせ、あの頃の涼風は
とうもろこしの葉やおまえの指股に浮かぶ汗の味がする
やがて工場の煙突は、朝空に、ばらの煙をあげるのだ。
恋人よ、あの頃の朝の涼風は、
とうもろこしの葉やおまえの指股に浮かぶ汗の匂いがする
そうして僕は思うのだ、希望は去った、……忍従(にんじゅう)が残る。
忍従が残る、忍従が残ると。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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