中原中也・朝の詩の名作16/雨の朝
雨の朝
⦅麦湯(むぎゆ)は麦を、よく焦(こ)がした方がいいよ。⦆
⦅毎日々々、よく降りますですねえ。⦆
⦅インキはインキを、使ったらあと、栓(せん)をしとかなきゃいけない。⦆
⦅ハイ、皆さん大きい声で、一々(いんいち)が一……⦆
上草履(うわぞうり)は冷え、
バケツは雀の声を追想し、
雨は沛然(はいぜん)と降っている。
⦅ハイ、皆さん御一緒に、一二(いんに)が二……⦆
校庭は煙雨(けぶ)っている。
――どうして学校というものはこんなに静かなんだろう?
――家(うち)ではお饅(まん)じゅうが蒸(ふ)かせただろうか?
ああ、今頃もう、家ではお饅じゅうが蒸かせただろうか?
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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