中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション7/わが喫煙
わが喫煙
おまえのその、白い二本の脛(すね)が、
夕暮(ゆうぐれ)、港の町の寒い夕暮、
にょきにょきと、ペエヴの上を歩むのだ。
店々に灯(ひ)がついて、灯がついて、
私がそれをみながら歩いていると、
おまえが声をかけるのだ、
どっかにはいって憩(やす)みましょうよと。
そこで私は、橋や荷足を見残しながら、
レストオランに這入(はい)るのだ――
わんわんいう喧騒(どよもし)、むっとするスチーム、
さても此処(ここ)は別世界。
そこで私は、時宜(じぎ)にも合わないおまえの陽気な顔を眺め、
かなしく煙草(たばこ)を吹かすのだ、
一服(いっぷく)、一服、吹かすのだ……
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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