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2020年1月 1日 (水)

中原中也・朝の詩の名作29/春の消息

春の消息

生きているのは喜びなのか
生きているのは悲みなのか
どうやら僕には分らなんだが
僕は街なぞ歩いていました

店舗(てんぽ)々々に朝陽はあたって
淡い可愛いい物々の蔭影(かげ)
僕はそれでも元気はなかった
どうやら 足引摺(ひきず)って歩いていました

    生きているのは喜びなのか
    生きているのは悲みなのか

こんな思いが浮かぶというのも
ただただ衰弱(よわっ)ているせいだろか?
それとももともとこれしきなのが
人生というものなのだろうか?

尤(もっと)も分ったところでどうさえ
それがどうにもなるものでもない
こんな気持になったらなったで
自然にしているよりほかもない

そうと思えば涙がこぼれる
なんだか知らねえ涙がこぼれる
  悪く思って下さいますな
  僕はこんなに怠け者

                             (一九三五・四・二四)

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

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