中原中也・朝の詩の名作30/春と恋人
春と恋人
美しい扉の親しさに
私が室(へや)で遊んでいる時、
私にかまわず実ってた
新しい桃があったのだ……
街の中から見える丘、
丘に建ってたオベリスク、
春には私に桂水くれた
丘に建ってたオベリスク……
蜆(しじみ)や鰯(いわし)を商(あきな)う路次の
びしょ濡れの土が歌っている時、
かの女は何処(どこ)かで笑っていたのだ
港の春の朝の空で
私がかの女の肩を揺ったら、
真鍮(しんちゅう)の、盥(たらい)のようであったのだ……
以来私は木綿の夜曲?
はでな処(とこ)には行きたかない……
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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