中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション42/(吹く風を心の友と)
(吹く風を心の友と)
吹く風を心の友と
口笛に心まぎらわし
私がげんげ田を歩いていた十五の春は
煙のように、野羊(やぎ)のように、パルプのように、
とんで行って、もう今頃は、
どこか遠い別の世界で花咲いているであろうか
耳を澄ますと
げんげの色のようにはじらいながら遠くに聞こえる
あれは、十五の春の遠い音信なのだろうか
滲むように、日が暮れても空のどこかに
あの日の昼のままに
あの時が、あの時の物音が経過しつつあるように思われる
それが何処(どこ)か?――とにかく僕に其処(そこ)へゆけたらなあ……
心一杯に懺悔(ざんげ)して、
恕(ゆる)されたという気持の中に、再び生きて、
僕は努力家になろうと思うんだ――
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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