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2020年2月13日 (木)

中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション42/(吹く風を心の友と)

(吹く風を心の友と)

 

吹く風を心の友と

口笛に心まぎらわし

私がげんげ田を歩いていた十五の春は

煙のように、野羊(やぎ)のように、パルプのように、

 

とんで行って、もう今頃は、

どこか遠い別の世界で花咲いているであろうか

耳を澄ますと

げんげの色のようにはじらいながら遠くに聞こえる

 

あれは、十五の春の遠い音信なのだろうか

滲むように、日が暮れても空のどこかに

あの日の昼のままに

あの時が、あの時の物音が経過しつつあるように思われる

 

それが何処(どこ)か?――とにかく僕に其処(そこ)へゆけたらなあ……

心一杯に懺悔(ざんげ)して、

恕(ゆる)されたという気持の中に、再び生きて、

僕は努力家になろうと思うんだ――

 

 (「新編中原中也全集」第2巻・詩より。新かなに変えてあります。)

 

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