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2020年2月18日 (火)

中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション47/蝉

 

蝉(せみ)が鳴いている、蝉が鳴いている

蝉が鳴いているほかになんにもない!

うつらうつらと僕はする

……風もある……

松林を透いて空が見える

うつらうつらと僕はする。

 

『いいや、そうじゃない、そうじゃない!』と彼が云(い)う

『ちがっているよ』と僕がいう

『いいや、いいや!』と彼が云う

「ちがっているよ』と僕が云う

と、目が覚める、と、彼はもうとっくに死んだ奴なんだ

それから彼の永眠している、墓場のことなぞ目に浮ぶ……

 

それは中国のとある田舎の、水無河原(みずなしがわら)という

雨の日のほか水のない

伝説付の川のほとり、

藪蔭(やぶかげ)の砂土帯の小さな墓場、

――そこにも蝉は鳴いているだろ

チラチラ夕陽も射しているだろ……

 

蝉が鳴いている、蝉が鳴いている

蝉が鳴いているほかなんにもない!

僕の怠惰(たいだ)? 僕は『怠惰』か?

僕は僕を何とも思わぬ!

蝉が鳴いている、蝉が鳴いている

蝉が鳴いているほかなんにもない!

(一九三三・八・一四)

 

 (「新編中原中也全集」第2巻・詩より。新かなに変えてあります。)

 

            

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