中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション52/夏の夜の博覧会はかなしからずや
夏の夜の博覧会はかなしからずや
夏の夜の、博覧会は、哀しからずや
雨ちょと降りて、やがてもあがりぬ
夏の夜の、博覧会は、哀しからずや
女房買物をなす間、かなしからずや
象の前に余と坊やとはいぬ
二人蹲(しゃが)んでいぬ、かなしからずや、やがて女房きぬ
三人博覧会を出でぬかなしからずや
不忍(しのばず)ノ池の前に立ちぬ、坊や眺めてありぬ
そは坊やの見し、水の中にて最も大なるものなりきかなしからずや、
髪毛風に吹かれつ
見てありぬ、見てありぬ、
それより手を引きて歩きて
広小路に出でぬ、かなしからずや
広小路にて玩具を買いぬ、兎の玩具かなしからずや
2
その日博覧会入りしばかりの刻(とき)は
なお明るく、昼の明(あかり)ありぬ、
われら三人(みたり)飛行機にのりぬ
例の廻旋する飛行機にのりぬ
飛行機の夕空にめぐれば、
四囲の燈光また夕空にめぐりぬ
夕空は、紺青(こんじょう)の色なりき
燈光は、貝釦(かいボタン)の色なりき
その時よ、坊や見てありぬ
その時よ、めぐる釦を
その時よ、坊やみてありぬ
その時よ、紺青の空!
(一九三六・一二・二四)
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
« 中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション51/(秋が来た) | トップページ | 中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション53/(短歌五首) »
「068中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション」カテゴリの記事
- 中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション53/(短歌五首)(2020.02.24)
- 中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション52/夏の夜の博覧会はかなしからずや(2020.02.23)
- 中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション51/(秋が来た)(2020.02.22)
- 中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション50/初恋集 むつよ(2020.02.21)
- 中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション49/(一本の藁は畦の枯草の間に挟って)(2020.02.20)
« 中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション51/(秋が来た) | トップページ | 中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション53/(短歌五首) »
コメント