中原中也・夕(ゆうべ)の詩コレクション31/春の夕暮
春の夕暮
塗板(トタン)がセンベイ食べて
春の日の夕暮は静かです
アンダースロウされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮は穏(おだや)かです
ああ、案山子はなきか――あるまい
馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい
ただただ青色の月の光のノメランとするままに
従順なのは春の日の夕暮か
ポトホトと臘涙(ろうるい)に野の中の伽藍(がらん)は赤く
荷馬車の車、 油を失い
私が歴史的現在に物を言えば
嘲(あざけ)る嘲る空と山とが
瓦が一枚はぐれました
春の日の夕暮はこれから無言ながら
前進します
自(みずか)らの静脈管の中へです
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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