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2020年3月 3日 (火)

中原中也・春の詩コレクション6/春

春

 

春は土と草とに新しい汗をかかせる。

その汗を乾かそうと、雲雀(ひばり)は空に隲(あが)る。

瓦屋根(かわらやね)今朝不平がない、

長い校舎から合唱(がっしょう)は空にあがる。

 

ああ、しずかだしずかだ。

めぐり来た、これが今年の私の春だ。

むかし私の胸摶(う)った希望は今日を、

厳(いか)めしい紺青(こあお)となって空から私に降りかかる。

 

そして私は呆気(ほうけ)てしまう、バカになってしまう

――薮かげの、小川か銀か小波(さざなみ)か?

薮(やぶ)かげの小川か銀か小波か?

 

大きい猫が頸ふりむけてぶきっちょに

一つの鈴をころばしている、

一つの鈴を、ころばして見ている。

 

 (「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

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