中原中也・春の詩コレクション28/早春散歩
早春散歩
空は晴れてても、建物には蔭(かげ)があるよ、
春、早春は心なびかせ、
それがまるで薄絹(うすぎぬ)ででもあるように
ハンケチででもあるように
我等の心を引千切(ひきちぎ)り
きれぎれにして風に散らせる
私はもう、まるで過去がなかったかのように
少なくとも通っている人達の手前そうであるかの如(ごと)くに感じ、
風の中を吹き過ぎる
異国人のような眼眸(まなざし)をして、
確固たるものの如く、
また隙間風(すきまかぜ)にも消え去るものの如く
そうしてこの淋しい心を抱いて、
今年もまた春を迎えるものであることを
ゆるやかにも、茲(ここ)に春は立返ったのであることを
土の上の日射しをみながらつめたい風に吹かれながら
土手の上を歩きながら、遠くの空を見やりながら
僕は思う、思うことにも慣れきって僕は思う……
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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