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2020年3月25日 (水)

中原中也・春の詩コレクション28/早春散歩

早春散歩

 

空は晴れてても、建物には蔭(かげ)があるよ、

春、早春は心なびかせ、

それがまるで薄絹(うすぎぬ)ででもあるように

ハンケチででもあるように

我等の心を引千切(ひきちぎ)り

きれぎれにして風に散らせる

 

私はもう、まるで過去がなかったかのように

少なくとも通っている人達の手前そうであるかの如(ごと)くに感じ、

風の中を吹き過ぎる

異国人のような眼眸(まなざし)をして、

確固たるものの如く、

また隙間風(すきまかぜ)にも消え去るものの如く

 

そうしてこの淋しい心を抱いて、

今年もまた春を迎えるものであることを

ゆるやかにも、茲(ここ)に春は立返ったのであることを

土の上の日射しをみながらつめたい風に吹かれながら

土手の上を歩きながら、遠くの空を見やりながら

僕は思う、思うことにも慣れきって僕は思う……

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

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