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2020年4月

2020年4月30日 (木)

中原中也・夜の詩コレクション30/春宵感懐

春宵感懐

 

雨が、あがって、風が吹く。

 雲が、流れる、月かくす。

みなさん、今夜は、春の宵(よい)。

 なまあったかい、風が吹く。

 

なんだか、深い、溜息(ためいき)が、

 なんだかはるかな、幻想が、

湧(わ)くけど、それは、掴(つか)めない。

 誰にも、それは、語れない。

 

誰にも、それは、語れない

 ことだけれども、それこそが、

いのちだろうじゃないですか、

 けれども、それは、示(あ)かせない……

 

かくて、人間、ひとりびとり、

 こころで感じて、顔見合(かおみあわ)せれば

にっこり笑うというほどの

 ことして、一生、過ぎるんですねえ

 

雨が、あがって、風が吹く。

 雲が、流れる、月かくす。

みなさん、今夜は、春の宵。

 なまあったかい、風が吹く。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月29日 (水)

中原中也・夜の詩コレクション29/わが半生

わが半生

 

私は随分苦労して来た。

それがどうした苦労であったか、

語ろうなぞとはつゆさえ思わぬ。

またその苦労が果して価値の

あったものかなかったものか、

そんなことなぞ考えてもみぬ。

 

とにかく私は苦労して来た。

苦労して来たことであった!

そして、今、此処(ここ)、机の前の、

自分を見出(みいだ)すばっかりだ。

じっと手を出し眺(なが)めるほどの

ことしか私は出来ないのだ。

 

   外では今宵(こよい)、木の葉がそよぐ。

   はるかな気持の、春の宵だ。

   そして私は、静かに死ぬる、

   坐ったまんまで、死んでゆくのだ。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月28日 (火)

中原中也・夜の詩コレクション28/雪の賦

雪の賦

 

雪が降るとこのわたくしには、人生が、

かなしくもうつくしいものに――

憂愁(ゆうしゅう)にみちたものに、思えるのであった。

 

その雪は、中世の、暗いお城の塀にも降り、

大高源吾(おおたかげんご)の頃にも降った……

 

幾多(あまた)々々の孤児の手は、

そのためにかじかんで、

都会の夕べはそのために十分悲しくあったのだ。

 

ロシアの田舎の別荘の、

矢来(やらい)の彼方(かなた)に見る雪は、

うんざりする程永遠で、

 

雪の降る日は高貴の夫人も、

ちっとは愚痴(ぐち)でもあろうと思われ……

 

雪が降るとこのわたくしには、人生が

かなしくもうつくしいものに――

憂愁にみちたものに、思えるのであった。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月27日 (月)

中原中也・夜の詩コレクション27/除夜の鐘

除夜の鐘

 

除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。

千万年も、古びた夜の空気を顫(ふる)わし、

除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。

 

それは寺院の森の霧(きら)った空……

そのあたりで鳴って、そしてそこから響いて来る。

それは寺院の森の霧った空……

 

その時子供は父母の膝下(ひざもと)で蕎麦(そば)を食うべ、

その時銀座はいっぱいの人出、浅草もいっぱいの人出、

その時子供は父母の膝下で蕎麦を食うべ。

 

その時銀座はいっぱいの人出、浅草もいっぱいの人出。

その時囚人は、どんな心持だろう、どんな心持だろう、

その時銀座はいっぱいの人出、浅草もいっぱいの人出。

 

除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。

千万年も、古びた夜の空気を顫わし、

除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月26日 (日)

中原中也・夜の詩コレクション26/お道化うた

お道化うた

 

月の光のそのことを、

盲目少女(めくらむすめ)に教えたは、

ベートーヴェンか、シューバート?

俺の記憶の錯覚が、

今夜とちれているけれど、

ベトちゃんだとは思うけど、

シュバちゃんではなかったろうか?

 

霧の降ったる秋の夜に、

庭・石段に腰掛けて、

月の光を浴びながら、

二人、黙っていたけれど、

やがてピアノの部屋に入り、

泣かんばかりに弾き出した、

あれは、シュバちゃんではなかったろうか?

 

かすむ街の灯とおに見て、

ウインの市の郊外に、

星も降るよなその夜さ一と夜、

虫、草叢(くさむら)にすだく頃、

教師の息子の十三番目、

頸(くび)の短いあの男、

盲目少女(めくらむすめ)の手をとるように、

ピアノの上に勢い込んだ、

汗の出そうなその額、

安物くさいその眼鏡、

丸い背中もいじらしく

吐き出すように弾いたのは、

あれは、シュバちゃんではなかったろうか?

 

シュバちゃんかベトちゃんか、

そんなこと、いざ知らね、

今宵星降る東京の夜(よる)、

ビールのコップを傾けて、

月の光を見てあれば、

ベトちゃんもシュバちゃんも、はやとおに死に、

はやとおに死んだことさえ、

誰知ろうことわりもない……

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月25日 (土)

中原中也・夜の詩コレクション25/初夏の夜

初夏の夜

 

また今年(こんねん)も夏が来て、

夜は、蒸気(じょうき)で出来た白熊が、

沼をわたってやってくる。

――色々のことがあったんです。

色々のことをして来たものです。

嬉(うれ)しいことも、あったのですが、

回想されては、すべてがかなしい

鉄製の、軋音(あつおん)さながら

なべては夕暮迫(せま)るけはいに

幼年も、老年も、青年も壮年も、

共々に余りに可憐(かれん)な声をばあげて、

薄暮の中で舞う蛾(が)の下で

はかなくも可憐な顎をしているのです。

されば今夜(こんや)六月の良夜(あたらよ)なりとはいえ、

遠いい物音が、心地よく風に送られて来るとはいえ、

なにがなし悲しい思いであるのは、

消えたばかしの鉄橋の響音(きょうおん)、

大河(おおかわ)の、その鉄橋の上方に、空はぼんやりと石盤色(せきばんいろ)であるのです。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月24日 (金)

中原中也・夜の詩コレクション24/夏の夜に覚めてみた夢

夏の夜に覚めてみた夢

 

眠ろうとして目をば閉じると

真ッ暗なグランドの上に

その日昼みた野球のナインの

ユニホームばかりほのかに白く――

 

ナインは各々(おのおの)守備位置にあり

狡(ずる)そうなピッチャは相も変らず

お調子者のセカンドは

相も変らぬお調子ぶりの

 

扨(さて)、待っているヒットは出なく

やれやれと思っていると

ナインも打者も悉(ことごと)く消え

人ッ子一人いはしないグランドは

 

忽(たちま)ち暑い真昼(ひる)のグランド

グランド繞(めぐ)るポプラ竝木(なみき)は

蒼々(あおあお)として葉をひるがえし

ひときわつづく蝉しぐれ

やれやれと思っているうち……眠(ね)た

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月23日 (木)

中原中也・夜の詩コレクション23/冬の夜

冬の夜

 

みなさん今夜は静かです

薬鑵(やかん)の音がしています

僕は女を想(おも)ってる

僕には女がないのです

 

それで苦労もないのです

えもいわれない弾力の

空気のような空想に

女を描(えが)いてみているのです

 

えもいわれない弾力の

澄み亙(わた)ったる夜(よ)の沈黙(しじま)

薬鑵の音を聞きながら

女を夢みているのです

 

かくて夜(よ)は更(ふ)け夜は深まって

犬のみ覚めたる冬の夜は

影と煙草と僕と犬

えもいわれないカクテールです

 

   2

 

空気よりよいものはないのです

それも寒い夜の室内の空気よりもよいものはないのです

煙よりよいものはないのです

煙より 愉快なものもないのです

やがてはそれがお分りなのです

同感なさる時が 来るのです

 

空気よりよいものはないのです

寒い夜の痩せた年増女(としま)の手のような

その手の弾力のような やわらかい またかたい

かたいような その手の弾力のような

煙のような その女の情熱のような

炎(も)えるような 消えるような

 

冬の夜の室内の 空気よりよいものはないのです

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月22日 (水)

中原中也・夜の詩コレクション22/湖 上

湖 上

 

ポッカリ月が出ましたら、

舟を浮べて出掛けましょう。

波はヒタヒタ打つでしょう、

風も少しはあるでしょう。

 

沖に出たらば暗いでしょう、

櫂(かい)から滴垂(したた)る水の音(ね)は

昵懇(ちか)しいものに聞こえましょう、

――あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。

 

月は聴き耳立てるでしょう、

すこしは降りても来るでしょう、

われら接唇(くちづけ)する時に

月は頭上にあるでしょう。

 

あなたはなおも、語るでしょう、

よしないことや拗言(すねごと)や、

洩(も)らさず私は聴くでしょう、

――けれど漕(こ)ぐ手はやめないで。

 

ポッカリ月が出ましたら、

舟を浮べて出掛けましょう、

波はヒタヒタ打つでしょう、

風も少しはあるでしょう。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月21日 (火)

中原中也・夜の詩コレクション21/冷たい夜

冷たい夜

 

冬の夜に

私の心が悲しんでいる

悲しんでいる、わけもなく……

心は錆(さ)びて、紫色をしている。

 

丈夫な扉の向うに、

古い日は放心している。

丘の上では

棉(わた)の実が罅裂(はじ)ける。

 

此処(ここ)では薪(たきぎ)が燻(くすぶ)っている、

その煙は、自分自らを

知ってでもいるようにのぼる。

 

誘われるでもなく

覓(もと)めるでもなく、

私の心が燻る……

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月20日 (月)

中原中也・夜の詩コレクション20/幼獣の歌

幼獣の歌

 

黒い夜草深い野にあって、

一匹の獣(けもの)が火消壺(ひけしつぼ)の中で

燧石(ひうちいし)を打って、星を作った。

冬を混ぜる 風が鳴って。

 

獣はもはや、なんにも見なかった。

カスタニェットと月光のほか

目覚ますことなき星を抱いて、

壺の中には冒瀆(ぼうとく)を迎えて。

 

雨後らしく思い出は一塊(いっかい)となって

風と肩を組み、波を打った。

ああ なまめかしい物語――

奴隷(どれい)も王女と美しかれよ。

 

  卵殻(らんかく)もどきの貴公子の微笑と

  遅鈍(ちどん)な子供の白血球とは、

  それな獣を怖がらす。

 

黒い夜草深い野の中で、

一匹の獣の心は燻(くすぶ)る。

黒い夜草深い野の中で――――

太古(むかし)は、独語(どくご)も美しかった!……

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月19日 (日)

中原中也・夜の詩コレクション19/夏の夜

夏の夜

 

ああ 疲れた胸の裡(うち)を

桜色の 女が通る

女が通る。

 

夏の夜の水田の滓(おり)、

怨恨(えんこん)は気が遐(とお)くなる

――盆地を繞(めぐ)る山は巡るか?

 

裸足(らそく)はやさしく 砂は底だ、

開いた瞳は おいてきぼりだ、

霧(きり)の夜空は 高くて黒い。

 

霧の夜空は高くて黒い、

親の慈愛(じあい)はどうしようもない

――疲れた胸の裡を 花弁(かべん)が通る。

 

疲れた胸の裡を 花弁が通る

ときどき銅鑼(ごんぐ)が著物(きもの)に触れて。

靄(もや)はきれいだけれども、暑い!

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月18日 (土)

中原中也・夜の詩コレクション18/月

 

今宵(こよい)月は襄荷(みょうが)を食い過ぎている

済製場(さいせいば)の屋根にブラ下った琵琶(びわ)は鳴るとしも想(おも)えぬ

石灰の匂いがしたって怖(おじ)けるには及ばぬ

灌木(かんぼく)がその個性を砥(と)いでいる

姉妹は眠った、母親は紅殻色(べんがらいろ)の格子を締めた!

 

さてベランダの上にだが

見れば銅貨が落ちている、いやメダルなのかァ

これは今日昼落とした文子さんのだ

明日はこれを届けてやろう

ポケットに入れたが気にかかる、月は襄荷を食い過ぎている

灌木がその個性を砥いでいる

姉妹は眠った、母親は紅殻色の格子を締めた!

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月17日 (金)

中原中也・夜の詩コレクション17/夜更の雨――ヴェルレーヌの面影――

中原中也・夜の詩コレクション17/夜更の雨――ヴェルレーヌの面影――

 

夜更の雨

    ――ヴェルレーヌの面影――

 

雨は 今宵(こよい)も 昔 ながらに、

  昔 ながらの 唄を うたってる。

だらだら だらだら しつこい 程だ。

  と、見る ヴェル氏の あの図体(ずうたい)が、

倉庫の 間の 路次(ろじ)を ゆくのだ。

 

倉庫の 間にゃ 護謨合羽(かっぱ)の 反射(ひかり)だ。

  それから 泥炭(でいたん)の しみたれた 巫戯(ふざ)けだ。

さてこの 路次を 抜けさえ したらば、

  抜けさえ したらと ほのかな のぞみだ……

いやはや のぞみにゃ 相違も あるまい?

 

自動車 なんぞに 用事は ないぞ、

  あかるい 外燈(ひ)なぞは なおの ことだ。

酒場の 軒燈(あかり)の 腐った 眼玉よ、

  遐(とお)くの 方では 舎密(せいみ)も 鳴ってる。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

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2020年4月16日 (木)

中原中也・夜の詩コレクション16/むなしさ

むなしさ

 

臘祭(ろうさい)の夜の 巷(ちまた)に堕(お)ちて

 心臓はも 条網(じょうもう)に絡(から)み

脂(あぶら)ぎる 胸乳(むなぢ)も露(あら)わ

 よすがなき われは戯女(たわれめ)

 

せつなきに 泣きも得せずて

 この日頃 闇(やみ)を孕(はら)めり

遐(とお)き空 線条(せんじょう)に鳴る

 海峡岸 冬の暁風(ぎょうふう)

 

白薔薇(しろばら)の 造花の花弁(かべん)

 凍(い)てつきて 心もあらず

 

明けき日の 乙女の集(つど)い

 それらみな ふるのわが友

 

偏菱形(へんりょうけい)=聚接面(しゅうせつめん)そも

 胡弓(こきゅう)の音(ね) つづきてきこゆ

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月15日 (水)

中原中也・夜の詩コレクション15/憔 悴

憔 悴

 

   Pour tout homme, il vient une èpoque


   où l’homme languit. ―Proverbe.


   Il faut d’abord avoir soif……
 

     ――Cathèrine de Mèdicis.

私はも早、善(よ)い意志をもっては目覚めなかった

起きれば愁(うれ)わしい 平常(いつも)のおもい

私は、悪い意志をもってゆめみた……

(私は其処(そこ)に安住したのでもないが、

其処を抜け出すことも叶(かな)わなかった)

そして、夜が来ると私は思うのだった、

此(こ)の世は、海のようなものであると。

 

私はすこししけている宵(よい)の海をおもった

其処を、やつれた顔の船頭(せんどう)は

おぼつかない手で漕(こ)ぎながら

獲物があるかあるまいことか

水の面(おもて)を、にらめながらに過ぎてゆく

 

   Ⅱ

 

昔 私は思っていたものだった

恋愛詩なぞ愚劣(ぐれつ)なものだと

 

今私は恋愛詩を詠(よ)み

甲斐(かい)あることに思うのだ

 

だがまだ今でもともすると

恋愛詩よりもましな詩境にはいりたい

 

その心が間違っているかいないか知らないが

とにかくそういう心が残っており

 

それは時々私をいらだて

とんだ希望を起(おこ)させる

 

昔私は思っていたものだった

恋愛詩なぞ愚劣なものだと

 

けれどもいまでは恋愛を

ゆめみるほかに能がない

 

   Ⅲ

 

それが私の堕落かどうか

どうして私に知れようものか

 

腕にたるんだ私の怠惰(たいだ)

今日も日が照る 空は青いよ

 

ひょっとしたなら昔から

おれの手に負えたのはこの怠惰だけだったかもしれぬ

 

真面目(まじめ)な希望も その怠惰の中から

憧憬(しょうけい)したのにすぎなかったかもしれぬ

 

ああ それにしてもそれにしても

ゆめみるだけの 男になろうとはおもわなかった!

 

   Ⅳ

 

しかし此の世の善だの悪だの

容易に人間に分りはせぬ

 

人間に分らない無数の理由が

あれをもこれをも支配しているのだ

 

山蔭(さんいん)の清水のように忍耐ぶかく

つぐんでいれば愉(たの)しいだけだ

 

汽車からみえる 山も 草も

空も 川も みんなみんな

 

やがては全体の調和に溶けて

空に昇って 虹となるのだろうとおもう……

 

   Ⅴ

 

さてどうすれば利(り)するだろうか、とか

どうすれば哂(わら)われないですむだろうか、とかと

 

要するに人を相手の思惑(おもわく)に

明けくれすぐす、世の人々よ、

 

僕はあなたがたの心も尤(もっと)もと感じ

一生懸命郷(ごう)に従ってもみたのだが

 

今日また自分に帰るのだ

ひっぱったゴムを手離したように

 

そうしてこの怠惰の窗(まど)の中から

扇(おうぎ)のかたちに食指をひろげ

 

青空を喫(す)う 閑(ひま)を嚥(の)む

蛙(かえる)さながら水に泛(うか)んで

 

夜(よる)は夜とて星をみる

ああ 空の奥、空の奥。

 

   Ⅵ

 

しかし またこうした僕の状態がつづき、

僕とても何か人のするようなことをしなければならないと思い、

自分の生存をしんきくさく感じ、

ともすると百貨店のお買上品届け人にさえ驚嘆(きょうたん)する。

 

そして理窟(りくつ)はいつでもはっきりしているのに

気持の底ではゴミゴミゴミゴミ懐疑(かいぎ)の小屑(おくず)が一杯です。

それがばかげているにしても、その二っつが

僕の中にあり、僕から抜けぬことはたしかなのです。

 

と、聞えてくる音楽には心惹(ひ)かれ、

ちょっとは生き生きしもするのですが、

その時その二っつは僕の中に死んで、

 

ああ 空の歌、海の歌、

僕は美の、核心を知っているとおもうのですが

それにしても辛いことです、怠惰を逭(のが)れるすべがない!

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月14日 (火)

中原中也・夜の詩コレクション14/羊の歌 安原喜弘に

羊の歌

        安原喜弘に

 

   Ⅰ 祈 り

 

死の時には私が仰向(あおむ)かんことを!

この小さな顎(あご)が、小さい上にも小さくならんことを!

それよ、私は私が感じ得なかったことのために、

罰されて、死は来たるものと思うゆえ。

 

ああ、その時私の仰向かんことを!

せめてその時、私も、すべてを感ずる者であらんことを!

 

   Ⅱ

 

思惑(おもわく)よ、汝(なんじ) 古く暗き気体よ、

わが裡(うち)より去れよかし!

われはや単純と静けき呟(つぶや)きと、

とまれ、清楚(せいそ)のほかを希(ねが)わず。

 

交際よ、汝陰鬱(いんうつ)なる汚濁(おじょく)の許容よ、

更(あらた)めてわれを目覚ますことなかれ!

われはや孤寂(こじゃく)に耐えんとす、

わが腕は既(すで)に無用の有(もの)に似たり。

 

汝、疑いとともに見開く眼(まなこ)よ

見開きたるままに暫(しば)しは動かぬ眼よ、

ああ、己(おのれ)の外(ほか)をあまりに信ずる心よ、

 

それよ思惑、汝 古く暗き空気よ、

わが裡より去れよかし去れよかし!

われはや、貧しきわが夢のほかに興(きょう)ぜず

 

   Ⅲ

 

  我が生は恐ろしい嵐のようであった、

  其処此処に時々陽の光も落ちたとはいえ。

          ボードレール

 

九歳の子供がありました

女の子供でありました

世界の空気が、彼女の有であるように

またそれは、凭(よ)っかかられるもののように

彼女は頸(くび)をかしげるのでした

私と話している時に。

 

私は炬燵(こたつ)にあたっていました

彼女は畳に坐っていました

冬の日の、珍(めずら)しくよい天気の午前

私の室には、陽がいっぱいでした

彼女が頸かしげると

彼女の耳朶(みみのは)陽に透(す)きました。

 

私を信頼しきって、安心しきって

かの女の心は密柑(みかん)の色に

そのやさしさは氾濫(はんらん)するなく、かといって

鹿のように縮かむこともありませんでした

私はすべての用件を忘れ

この時ばかりはゆるやかに時間を熟読翫味(じゅくどくがんみ)しました。

 

   Ⅳ

 

さるにても、もろに佗(わび)しいわが心

夜(よ)な夜なは、下宿の室(へや)に独りいて

思いなき、思いを思う 単調の

つまし心の連弾(れんだん)よ……

 

汽車の笛(ふえ)聞こえもくれば

旅おもい、幼(おさな)き日をばおもうなり

いなよいなよ、幼き日をも旅をも思わず

旅とみえ、幼き日とみゆものをのみ……

 

思いなき、おもいを思うわが胸は

閉(と)ざされて、醺生(かびは)ゆる手匣(てばこ)にこそはさも似たれ

しらけたる脣(くち)、乾きし頬(ほお)

酷薄(こくはく)の、これな寂莫(しじま)にほとぶなり……

 

これやこの、慣れしばかりに耐えもする

さびしさこそはせつなけれ、みずからは

それともしらず、ことように、たまさかに

ながる涙は、人恋(ひとこ)うる涙のそれにもはやあらず……

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月13日 (月)

中原中也・夜の詩コレクション13/生い立ちの歌

生い立ちの歌

 

   Ⅰ

 

    幼 年 時

 

私の上に降る雪は

真綿(まわた)のようでありました

 

    少 年 時

 

私の上に降る雪は

霙(みぞれ)のようでありました

 

    十七〜十九

 

私の上に降る雪は

霰(あられ)のように散りました

 

    二十〜二十二

 

私の上に降る雪は

雹(ひょう)であるかと思われた

 

    二十三

 

私の上に降る雪は

ひどい吹雪(ふぶき)とみえました

 

    二十四

私の上に降る雪は

いとしめやかになりました……

 

   Ⅱ

 

私の上に降る雪は

花びらのように降ってきます

薪(たきぎ)の燃える音もして

凍(こお)るみ空の黝(くろ)む頃

 

私の上に降る雪は

いとなよびかになつかしく

手を差伸(さしの)べて降りました

 

私の上に降る雪は

熱い額(ひたい)に落ちもくる

涙のようでありました

 

私の上に降る雪に

いとねんごろに感謝して、神様に

長生(ながいき)したいと祈りました

 

私の上に降る雪は

いと貞潔(ていけつ)でありました

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月12日 (日)

中原中也・夜の詩コレクション12/雪の宵

雪の宵

 

   青いソフトに降る雪は

   過ぎしその手か囁きか  白 秋

 

ホテルの屋根に降る雪は

過ぎしその手か、囁(ささや)きか

  

  ふかふか煙突(えんとつ)煙吐(けむは)いて、

  赤い火の粉(こ)も刎(は)ね上る。

今夜み空はまっ暗で、

暗い空から降る雪は……

 

  ほんに別れたあのおんな、

  いまごろどうしているのやら。

 

ほんにわかれたあのおんな、

いまに帰ってくるのやら

 

  徐(しず)かに私は酒のんで

  悔(くい)と悔とに身もそぞろ。

 

しずかにしずかに酒のんで

いとしおもいにそそらるる……

 

  ホテルの屋根に降る雪は

  過ぎしその手か、囁きか

 

ふかふか煙突煙吐いて

赤い火の粉も刎ね上る。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月11日 (土)

中原中也・夜の詩コレクション11/更くる夜 内海誓一郎に

更くる夜

       内海誓一郎に 

 

毎晩々々、夜が更(ふ)けると、近所の湯屋(ゆや)の

  水汲(く)む音がきこえます。

流された残り湯が湯気(ゆげ)となって立ち、

  昔ながらの真っ黒い武蔵野の夜です。

おっとり霧も立罩(たちこ)めて

  その上に月が明るみます、

と、犬の遠吠(とおぼえ)がします。

 

その頃です、僕が囲炉裏(いろり)の前で、

  あえかな夢をみますのは。

随分(ずいぶん)……今では損(そこ)われてはいるものの

  今でもやさしい心があって、

こんな晩ではそれが徐かに呟きだすのを、

  感謝にみちて聴(き)きいるのです、

感謝にみちて聴きいるのです。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月10日 (金)

中原中也・夜の詩コレクション10/心 象

心 象

 

   Ⅰ

 

松の木に風が吹き、

踏む砂利(じゃり)の音は寂しかった。

暖い風が私の額を洗い

思いははるかに、なつかしかった。

 

腰をおろすと、

浪(なみ)の音がひときわ聞えた。

星はなく

空は暗い綿(わた)だった。

 

とおりかかった小舟の中で

船頭(せんどう)がその女房に向って何かを云(い)った。

――その言葉は、聞きとれなかった。

 

浪の音がひときわきこえた。

 

   Ⅱ

 

亡(ほろ)びたる過去のすべてに

涙湧(わ)く。

城の塀乾きたり

風の吹く

 

草靡く

丘を越え、野を渉(わた)り

憩(いこ)いなき

白き天使のみえ来ずや

 

あわれわれ死なんと欲(ほっ)す、

あわれわれ生きんと欲す

あわれわれ、亡びたる過去のすべてに

 

涙湧く。

み空の方より、

風の吹く

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月 9日 (木)

中原中也・夜の詩コレクション9/失せし希望

失せし希望

 

暗き空へと消え行きぬ

わが若き日を燃えし希望は。

 

夏の夜の星の如(ごと)くは今もなお

遐(とお)きみ空に見え隠る、今もなお。

 

暗き空へと消えゆきぬ

わが若き日の夢は希望は。

 

今はた此処(ここ)に打伏(うちふ)して

獣(けもの)の如くは、暗き思いす。

 

そが暗き思いいつの日

晴れんとの知るよしなくて、

 

溺れたる夜の海より

空の月、望むが如し。

 

その浪(なみ)はあまりに深く

その月はあまりに清く、

 

あわれわが若き日を燃えし希望の

今ははや暗き空へと消え行きぬ。

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月 8日 (水)

中原中也・夜の詩コレクション8/寒い夜の自我像

寒い夜の自我像

 

きらびやかでもないけれど

この一本の手綱(たずな)をはなさず

この陰暗の地域を過ぎる!

その志(こころざし)明らかなれば

冬の夜を我(われ)は嘆(なげ)かず

人々の憔懆(しょうそう)のみの愁(かな)しみや

憧れに引廻(ひきまわ)される女等(おんなら)の鼻唄を

わが瑣細(ささい)なる罰と感じ

そが、わが皮膚を刺すにまかす。

 

蹌踉(よろ)めくままに静もりを保ち、

聊(いささ)かは儀文(ぎぶん)めいた心地をもって

われはわが怠惰(たいだ)を諫(いさ)める

寒月(かんげつ)の下を往(ゆ)きながら。

 

陽気で、坦々(たんたん)として、而(しか)も己(おのれ)を売らないことをと、

わが魂の願うことであった!

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月 7日 (火)

中原中也・夜の詩コレクション7/妹 よ

妹 よ

 

夜、うつくしい魂は涕(な)いて、

  ――かの女こそ正当(あたりき)なのに――

夜、うつくしい魂は涕いて、

  もう死んだっていいよう……というのであった。

 

湿った野原の黒い土、短い草の上を

  夜風は吹いて、 

死んだっていいよう、死んだっていいよう、と、

  うつくしい魂は涕くのであった。

 

夜、み空はたかく、吹く風はこまやかに

  ――祈るよりほか、わたくしに、すべはなかった……

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月 6日 (月)

中原中也・夜の詩コレクション6/秋の夜空

秋の夜空

 

これはまあ、おにぎわしい、

みんなてんでなことをいう

それでもつれぬみやびさよ

いずれ揃(そろ)って夫人たち。

    下界(げかい)は秋の夜(よ)というに

上天界(じょうてんかい)のにぎわしさ。

 

すべすべしている床の上、

金のカンテラ点(つ)いている。

小さな頭、長い裳裾(すそ)、

椅子(いす)は一つもないのです。

    下界は秋の夜というに

上天界のあかるさよ。

 

ほんのりあかるい上天界

遐(とお)き昔の影祭(かげまつり)、

しずかなしずかな賑(にぎ)わしさ

上天界の夜の宴。

    私は下界で見ていたが、

知らないあいだに退散した。

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月 5日 (日)

中原中也・夜の詩コレクション5/ためいき 河上徹太郎に

ためいき

    河上徹太郎に

 

ためいきは夜の沼にゆき、

瘴気(しょうき)の中で瞬(まばた)きをするであろう。

その瞬きは怨めしそうにながれながら、パチンと音をたてるだろう。

木々が若い学者仲間の、頸(くび)すじのようであるだろう。

 

夜が明けたら地平線に、窓が開くだろう。

荷車(にぐるま)を挽(ひ)いた百姓が、町の方へ行くだろう。

ためいきはなお深くして、

丘に響きあたる荷車の音のようであるだろう。

 

野原に突出(つきで)た山(やま)ノ端(は)の松が、私を看守(みまも)っているだろう。

それはあっさりしてても笑わない、叔父(おじ)さんのようであるだろう。

神様が気層(きそう)の底の、魚を捕っているようだ。

 

空が曇ったら、蝗螽(いなご)の瞳が、砂土(すなつち)の中に覗(のぞ)くだろう。

遠くに町が、石灰(せっかい)みたいだ。

ピョートル大帝の目玉が、雲の中で光っている。

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月 4日 (土)

中原中也・夜の詩コレクション4/冬の雨の夜

冬の雨の夜

 

 冬の黒い夜をこめて

どしゃぶりの雨が降っていた。

――夕明下(ゆうあかりか)に投げいだされた、萎(しお)れ大根(だいこ)の陰惨さ、

あれはまだしも結構だった――

今や黒い冬の夜をこめ

どしゃぶりの雨が降っている。

亡き乙女達(おとめたち)の声さえがして

aé ao, aé ao, éo, aéo éo!

 その雨の中を漂いながら

いつだか消えてなくなった、あの乳白の脬囊(ひょうのう)たち……

今や黒い冬の夜をこめ

どしゃぶりの雨が降っていて、

わが母上の帯締(おびじ)めも

雨水(うすい)に流れ、潰(つぶ)れてしまい、

人の情けのかずかずも

竟(つい)に密柑(みかん)の色のみだった?……

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

中原中也・夜の詩コレクション3/深夜の思い

深夜の思い

 

これは泡立つカルシウムの

乾きゆく

急速な――頑(がん)ぜない女の児の泣声(なきごえ)だ、

鞄屋(かばんや)の女房の夕(ゆうべ)の鼻汁だ。

 

林の黄昏は

擦(かす)れた母親。

虫の飛交(とびか)う梢(こずえ)のあたり、

舐子(おしゃぶり)のお道化(どけ)た踊り。

 

波うつ毛の猟犬見えなく、

猟師は猫背を向(むこ)うに運ぶ。

森を控えた草地が

  坂になる!

 

黒き浜辺にマルガレエテが歩み寄(よ)する

ヴェールを風に千々(ちぢ)にされながら。

彼女の肉(しし)は跳び込まねばならぬ、

厳(いか)しき神の父なる海に!

 

崖の上の彼女の上に

精霊が怪(あや)しげなる条(すじ)を描く。

彼女の思い出は悲しい書斎の取片附(とりかたづ)け

彼女は直(じ)きに死なねばならぬ。

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月 3日 (金)

中原中也・夜の詩コレクション2/都会の夏の夜

都会の夏の夜

 

月は空にメダルのように、

街角に建物はオルガンのように、

遊び疲れた男どち唱(うた)いながらに帰ってゆく。  

――イカムネ・カラアがまがっている――

 

その脣(くちびる)は胠(ひら)ききって

その心は何か悲しい。

頭が暗い土塊(つちくれ)になって、

ただもうラアラア唱ってゆくのだ。

 

商用のことや祖先のことや

忘れているというではないが、

都会の夏の夜の更――

 

死んだ火薬と深くして

眼(め)に外燈(がいとう)の滲(し)みいれば

ただもうラアラア唱ってゆくのだ。

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月 2日 (木)

中原中也・夜の詩コレクション1/春の夜

春の夜

 

燻銀(いぶしぎん)なる窓枠の中になごやかに

一枝(ひとえだ)の花、桃色の花。

 

月光うけて失神し

庭の土面(つちも)は附黒子(つけぼくろ)。

 

ああこともなしこともなし

樹々(きぎ)よはにかみ立ちまわれ。

 

このすずろなる物の音(ね)に

希望はあらず、さてはまた、懺悔(ざんげ)もあらず。

 

山虔(やまつつま)しき木工(こだくみ)のみ、

夢の裡(うち)なる隊商(たいしょう)のその足竝(あしなみ)もほのみゆれ。

 

窓の中にはさわやかの、おぼろかの

砂の色せる絹衣(きぬごろも)。

かびろき胸のピアノ鳴り

祖先はあらず、親も消(け)ぬ。

 

埋(うず)みし犬の何処(いずく)にか、

蕃紅花色(さふらんいろ)に湧(わ)きいずる

春の夜や。

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

2020年4月 1日 (水)

中原中也・春の詩コレクション35/春と恋人

春と恋人

 

美しい扉の親しさに

私が室(へや)で遊んでいる時、

私にかまわず実ってた

新しい桃があったのだ……

 

街の中から見える丘、

丘に建ってたオベリスク、

春には私に桂水くれた

丘に建ってたオベリスク……

 

蜆(しじみ)や鰯(いわし)を商(あきな)う路次の

びしょ濡れの土が歌っている時、

かの女は何処(どこ)かで笑っていたのだ

 

港の春の朝の空で

私がかの女の肩を揺ったら、

真鍮(しんちゅう)の、盥(たらい)のようであったのだ……

 

以来私は木綿の夜曲?

はでな処(とこ)には行きたかない……

                                                                                                                                    

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

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