中原中也・夜の詩コレクション2/都会の夏の夜
都会の夏の夜
月は空にメダルのように、
街角に建物はオルガンのように、
遊び疲れた男どち唱(うた)いながらに帰ってゆく。
――イカムネ・カラアがまがっている――
その脣(くちびる)は胠(ひら)ききって
その心は何か悲しい。
頭が暗い土塊(つちくれ)になって、
ただもうラアラア唱ってゆくのだ。
商用のことや祖先のことや
忘れているというではないが、
都会の夏の夜の更――
死んだ火薬と深くして
眼(め)に外燈(がいとう)の滲(し)みいれば
ただもうラアラア唱ってゆくのだ。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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