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2020年4月 4日 (土)

中原中也・夜の詩コレクション4/冬の雨の夜

冬の雨の夜

 

 冬の黒い夜をこめて

どしゃぶりの雨が降っていた。

――夕明下(ゆうあかりか)に投げいだされた、萎(しお)れ大根(だいこ)の陰惨さ、

あれはまだしも結構だった――

今や黒い冬の夜をこめ

どしゃぶりの雨が降っている。

亡き乙女達(おとめたち)の声さえがして

aé ao, aé ao, éo, aéo éo!

 その雨の中を漂いながら

いつだか消えてなくなった、あの乳白の脬囊(ひょうのう)たち……

今や黒い冬の夜をこめ

どしゃぶりの雨が降っていて、

わが母上の帯締(おびじ)めも

雨水(うすい)に流れ、潰(つぶ)れてしまい、

人の情けのかずかずも

竟(つい)に密柑(みかん)の色のみだった?……

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

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