中原中也・夜の詩コレクション19/夏の夜
夏の夜
ああ 疲れた胸の裡(うち)を
桜色の 女が通る
女が通る。
夏の夜の水田の滓(おり)、
怨恨(えんこん)は気が遐(とお)くなる
――盆地を繞(めぐ)る山は巡るか?
裸足(らそく)はやさしく 砂は底だ、
開いた瞳は おいてきぼりだ、
霧(きり)の夜空は 高くて黒い。
霧の夜空は高くて黒い、
親の慈愛(じあい)はどうしようもない
――疲れた胸の裡を 花弁(かべん)が通る。
疲れた胸の裡を 花弁が通る
ときどき銅鑼(ごんぐ)が著物(きもの)に触れて。
靄(もや)はきれいだけれども、暑い!
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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