中原中也・夜の詩コレクション18/月
月
今宵(こよい)月は襄荷(みょうが)を食い過ぎている
済製場(さいせいば)の屋根にブラ下った琵琶(びわ)は鳴るとしも想(おも)えぬ
石灰の匂いがしたって怖(おじ)けるには及ばぬ
灌木(かんぼく)がその個性を砥(と)いでいる
姉妹は眠った、母親は紅殻色(べんがらいろ)の格子を締めた!
さてベランダの上にだが
見れば銅貨が落ちている、いやメダルなのかァ
これは今日昼落とした文子さんのだ
明日はこれを届けてやろう
ポケットに入れたが気にかかる、月は襄荷を食い過ぎている
灌木がその個性を砥いでいる
姉妹は眠った、母親は紅殻色の格子を締めた!
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
« 中原中也・夜の詩コレクション17/夜更の雨――ヴェルレーヌの面影―― | トップページ | 中原中也・夜の詩コレクション19/夏の夜 »
「067中原中也・夜の歌コレクション」カテゴリの記事
- 中原中也・夜の詩コレクション118/秋の夜に、湯に浸り(2020.08.01)
- 中原中也・夜の詩コレクション117/雨が降るぞえ――病棟挽歌(2020.07.31)
- 中原中也・夜の詩コレクション116/道修山夜曲(2020.07.30)
- 中原中也・夜の詩コレクション115/夏の夜の博覧会はかなしからずや(2020.07.29)
- 中原中也・夜の詩コレクション114/暗い公園(2020.07.28)
« 中原中也・夜の詩コレクション17/夜更の雨――ヴェルレーヌの面影―― | トップページ | 中原中也・夜の詩コレクション19/夏の夜 »
コメント