中原中也・夜の詩コレクション30/春宵感懐
春宵感懐
雨が、あがって、風が吹く。
雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵(よい)。
なまあったかい、風が吹く。
なんだか、深い、溜息(ためいき)が、
なんだかはるかな、幻想が、
湧(わ)くけど、それは、掴(つか)めない。
誰にも、それは、語れない。
誰にも、それは、語れない
ことだけれども、それこそが、
いのちだろうじゃないですか、
けれども、それは、示(あ)かせない……
かくて、人間、ひとりびとり、
こころで感じて、顔見合(かおみあわ)せれば
にっこり笑うというほどの
ことして、一生、過ぎるんですねえ
雨が、あがって、風が吹く。
雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵。
なまあったかい、風が吹く。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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