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2020年4月30日 (木)

中原中也・夜の詩コレクション30/春宵感懐

春宵感懐

 

雨が、あがって、風が吹く。

 雲が、流れる、月かくす。

みなさん、今夜は、春の宵(よい)。

 なまあったかい、風が吹く。

 

なんだか、深い、溜息(ためいき)が、

 なんだかはるかな、幻想が、

湧(わ)くけど、それは、掴(つか)めない。

 誰にも、それは、語れない。

 

誰にも、それは、語れない

 ことだけれども、それこそが、

いのちだろうじゃないですか、

 けれども、それは、示(あ)かせない……

 

かくて、人間、ひとりびとり、

 こころで感じて、顔見合(かおみあわ)せれば

にっこり笑うというほどの

 ことして、一生、過ぎるんですねえ

 

雨が、あがって、風が吹く。

 雲が、流れる、月かくす。

みなさん、今夜は、春の宵。

 なまあったかい、風が吹く。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

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