中原中也・夜の詩コレクション8/寒い夜の自我像
寒い夜の自我像
きらびやかでもないけれど
この一本の手綱(たずな)をはなさず
この陰暗の地域を過ぎる!
その志(こころざし)明らかなれば
冬の夜を我(われ)は嘆(なげ)かず
人々の憔懆(しょうそう)のみの愁(かな)しみや
憧れに引廻(ひきまわ)される女等(おんなら)の鼻唄を
わが瑣細(ささい)なる罰と感じ
そが、わが皮膚を刺すにまかす。
蹌踉(よろ)めくままに静もりを保ち、
聊(いささ)かは儀文(ぎぶん)めいた心地をもって
われはわが怠惰(たいだ)を諫(いさ)める
寒月(かんげつ)の下を往(ゆ)きながら。
陽気で、坦々(たんたん)として、而(しか)も己(おのれ)を売らないことをと、
わが魂の願うことであった!
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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