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2020年4月12日 (日)

中原中也・夜の詩コレクション12/雪の宵

雪の宵

 

   青いソフトに降る雪は

   過ぎしその手か囁きか  白 秋

 

ホテルの屋根に降る雪は

過ぎしその手か、囁(ささや)きか

  

  ふかふか煙突(えんとつ)煙吐(けむは)いて、

  赤い火の粉(こ)も刎(は)ね上る。

今夜み空はまっ暗で、

暗い空から降る雪は……

 

  ほんに別れたあのおんな、

  いまごろどうしているのやら。

 

ほんにわかれたあのおんな、

いまに帰ってくるのやら

 

  徐(しず)かに私は酒のんで

  悔(くい)と悔とに身もそぞろ。

 

しずかにしずかに酒のんで

いとしおもいにそそらるる……

 

  ホテルの屋根に降る雪は

  過ぎしその手か、囁きか

 

ふかふか煙突煙吐いて

赤い火の粉も刎ね上る。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

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