中原中也・夜の詩コレクション28/雪の賦
雪の賦
雪が降るとこのわたくしには、人生が、
かなしくもうつくしいものに――
憂愁(ゆうしゅう)にみちたものに、思えるのであった。
その雪は、中世の、暗いお城の塀にも降り、
大高源吾(おおたかげんご)の頃にも降った……
幾多(あまた)々々の孤児の手は、
そのためにかじかんで、
都会の夕べはそのために十分悲しくあったのだ。
ロシアの田舎の別荘の、
矢来(やらい)の彼方(かなた)に見る雪は、
うんざりする程永遠で、
雪の降る日は高貴の夫人も、
ちっとは愚痴(ぐち)でもあろうと思われ……
雪が降るとこのわたくしには、人生が
かなしくもうつくしいものに――
憂愁にみちたものに、思えるのであった。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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