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2020年4月20日 (月)

中原中也・夜の詩コレクション20/幼獣の歌

幼獣の歌

 

黒い夜草深い野にあって、

一匹の獣(けもの)が火消壺(ひけしつぼ)の中で

燧石(ひうちいし)を打って、星を作った。

冬を混ぜる 風が鳴って。

 

獣はもはや、なんにも見なかった。

カスタニェットと月光のほか

目覚ますことなき星を抱いて、

壺の中には冒瀆(ぼうとく)を迎えて。

 

雨後らしく思い出は一塊(いっかい)となって

風と肩を組み、波を打った。

ああ なまめかしい物語――

奴隷(どれい)も王女と美しかれよ。

 

  卵殻(らんかく)もどきの貴公子の微笑と

  遅鈍(ちどん)な子供の白血球とは、

  それな獣を怖がらす。

 

黒い夜草深い野の中で、

一匹の獣の心は燻(くすぶ)る。

黒い夜草深い野の中で――――

太古(むかし)は、独語(どくご)も美しかった!……

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

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