中原中也・夜の詩コレクション20/幼獣の歌
幼獣の歌
黒い夜草深い野にあって、
一匹の獣(けもの)が火消壺(ひけしつぼ)の中で
燧石(ひうちいし)を打って、星を作った。
冬を混ぜる 風が鳴って。
獣はもはや、なんにも見なかった。
カスタニェットと月光のほか
目覚ますことなき星を抱いて、
壺の中には冒瀆(ぼうとく)を迎えて。
雨後らしく思い出は一塊(いっかい)となって
風と肩を組み、波を打った。
ああ なまめかしい物語――
奴隷(どれい)も王女と美しかれよ。
卵殻(らんかく)もどきの貴公子の微笑と
遅鈍(ちどん)な子供の白血球とは、
それな獣を怖がらす。
黒い夜草深い野の中で、
一匹の獣の心は燻(くすぶ)る。
黒い夜草深い野の中で――――
太古(むかし)は、独語(どくご)も美しかった!……
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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