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2020年4月 5日 (日)

中原中也・夜の詩コレクション5/ためいき 河上徹太郎に

ためいき

    河上徹太郎に

 

ためいきは夜の沼にゆき、

瘴気(しょうき)の中で瞬(まばた)きをするであろう。

その瞬きは怨めしそうにながれながら、パチンと音をたてるだろう。

木々が若い学者仲間の、頸(くび)すじのようであるだろう。

 

夜が明けたら地平線に、窓が開くだろう。

荷車(にぐるま)を挽(ひ)いた百姓が、町の方へ行くだろう。

ためいきはなお深くして、

丘に響きあたる荷車の音のようであるだろう。

 

野原に突出(つきで)た山(やま)ノ端(は)の松が、私を看守(みまも)っているだろう。

それはあっさりしてても笑わない、叔父(おじ)さんのようであるだろう。

神様が気層(きそう)の底の、魚を捕っているようだ。

 

空が曇ったら、蝗螽(いなご)の瞳が、砂土(すなつち)の中に覗(のぞ)くだろう。

遠くに町が、石灰(せっかい)みたいだ。

ピョートル大帝の目玉が、雲の中で光っている。

             

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

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